第三章・愛しのCherry 2ー①

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第三章・愛しのCherry 2ー①

匠には説明しておきたいと、大介はそのまま事務所へと向かった。 訪れた大介に、匠は大笑いで出迎えた。 「いやぁ、俺も大概、トンでもない女に付きまとわれてる方だと思うけど!もう、大介の女運の悪さは傑作!」 「そんなに笑うな。ブルーになるだろ」 「お前、正実を捕まえたので人間関係の運を使いきったな。お前にはイカれた女しか付いて来ない事がよーく分かった」 「……そうかもな。だから、俺も女嫌いになっちまうんだよ」 「大学の時に付き合ってた久美も、なかなか別れてくれなくてストーカーされてたらしいじゃん。お前、流石に持ってるモノがスゴいだけに、女が離してくんないね」 「ちょっ……兄ちゃん!」 後ろには沙里奈がいるというのに、他の男の下半身事情を話すなんて、デリカシーに欠けている。 正実が慌てて止めようとすると、それにも構わず、匠の口は止まらなかった。 「あれだろ、今までの女から比べたら、正実は本当の処女だろ?お前、俺の大事な弟のケツ、ブッ壊すなよ!」 「に、兄ちゃん~!」 「ブッ壊すも何も、仕事が忙しくて突っ込めてねぇっての!チクショウ~!一応、お前に謝っておくけど、今日は絶対に最後まで頂くぞ!明日は週末だしな!」 「おお!じゃあ、俺から激励のプレゼント、渡しておくわ!スムーズに挿入出来るようにジェルを……」 「もう~!兄ちゃん!大介さんも!やめろぉ~!」 妖しげなピンク色のボトルを繁々と見ながら密談する2人を、正実は後ろからドカドカと蹴り上げたが、如何せん余りにも身長差がありすぎて、何のダメージも食らわせられなかった。 その光景を見て、沙里奈はクスクスと口を押さえながら笑っていた。 「困ったお兄様方ですね」 「もう、ホンット馬鹿ですいません!」 「お2人共、正実さんが可愛くて仕方ないんですよ」 大介が自分に甘いのは知っている。 だが、匠にはスパルタ教育された記憶の方が頭にこびりついていて、可愛がられた記憶がない。 「匠さん。いつも『正実の自慢の兄でありたい』って言ってますよ?音楽に妥協を許さないのは、正実さんが音楽に対して厳しい目で見ているからじゃないですか?」 小さなCDデッキで音楽を聴く事を嫌がった正実。 兄が一流のスターになるのを夢見ていた正実。 そんな理想の高い弟に追い上げられるようにして、匠は突っ走って来た。 自分のその羨望の眼差しは、兄には負担ではなかっただろうか。 「俺、兄ちゃんに無茶言ってたんじゃないかな……。しんどくなかったかな」 「馬鹿言ってんじゃないぞ!」 正実の呟きに、匠は否定した。 「お前に『兄ちゃん、カッコいい!』って言われるのが、俺の快感だったんだよ。どんなファンよりもな、お前に『カッコいい』って言われなきゃ意味がないんだ」 「兄ちゃん……」 「お前は、あの頑固親父に『兄貴よりも成績の悪い出来損ない』って言われてたけど、その兄貴がさ、お前基準なんだっての。自信持てよ」 兄がそんな風に思っていたなんて、知らなかった。 今思えば、自分の友達が来ている部屋に年の離れた弟を入れる自体、溺愛されていたかも知れないと思う。 「ついでにさ、この あちこちの主に変な女に惚れられる超絶イケメンで、凄腕ベーシストの、金持ち農家の御曹司が、お前にベタ惚れなんだからよ。ちょっと、自慢して連れて歩ける男だぜ?車もスゲーしな!」 「……知ってる。乗るのが恥ずかしい位に派手な車だった」 背後で、正実の言葉に大介がショックを受けている。 「まぁ、これから頑張って、その御曹司のご自慢のブツに啼かされて来いや」 「ま、確かにスゴかったけどね……。でも、ここまであからさまな下ネタを話し合う兄弟もどうだかね……」 「ちゃんと挿ったか結果報告しろよ!」 「するか!」 正実はそのまま大介に肩を抱かれ、引き摺られるようにして、事務所を後にした。 去り際に沙里奈が「正実さん、大丈夫かしら」と言うと、匠は「明日は寝たきりかな?」と洒落にもならない事を言うので、正実は逃げ出したくなった。 匠の予言通り、その後、大介の長い間焦がれて拗れた愛情は、欲望を噴火するが如く爆発させるのだった。
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