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第三章・愛しのCherry 3ー②
開かれた玄関先には、招かれざる客が立っていた。
「こんばんは、パパ!今日はね、ママがご飯作ってくれるって!3人で食べよ?」
「どうせ男の独り暮らしなんて、コンビニ弁当ばっかりなんでしょう?だから、作りに来てあげたのよ」
正実からは、大介の大きな背中で隠れていたので、その姿を見る事は叶わなかったが、声と内容で誰なのかはすぐに分かった。
志保理と翼は、何の予告もなく訪れた。
「ちょっと待て。何のつもりだ」
「翼もパパに会いたいって言うから。お世話しに来てあげたんだから。感謝してね」
「お邪魔しま~す」
翼と志保理は大介を押し退けて、図々しくも部屋へと入ってきた。
このマンションは、台所に小さな食卓テーブルがある以外は、大きなベッドとパソコンだけの、独身寮のような部屋の作りだ。
翼と志保理は部屋に入ってすぐ、正実と対面した。
ベッドに座る正実は、明らかに大介の物であろうシャツを羽織り、胸元に昨日からの行為の激しさを物語る赤く鬱血した痕や、気だるそうな姿で、何の説明はなくてもその関係は明らかだった。
「ちょっと、大介。これは何?」
「何もクソも見たまんまだけど?お前には言っただろう?俺は生涯の伴侶がいるって」
「あれは、私の事だと……」
「どうやったら、そんな自分に都合良く、話を切り替えれんだよ」
大介の言葉に志保理は、みるみる表情を歪めていく。
目を見開き、眉が弓なりに吊り上がるその顔は、狂気を孕んでいた。
志保里は、ヒュウヒュウと息を詰まらせて恐慌状態に陥りながらも、正実の元に駆け寄った。
「ねぇ、貴方っ!男性よね?男同士なんでしょう?大介はね、農家の跡取り息子なのよ!跡継ぎが必要なの。ここは黙って身を引いてくれないかしら?私と翼が、大介には必要なのっ!」
「てっめぇ!ふざけんなっ!」
正実に食って掛かるようにして詰め寄る志保理の肩を掴んで、大介はそこから引き剥がした。
「そもそも、お前がガキだった俺を騙くらかして、捨てたんだろう!どの面下げて、ヨリ戻すつもりだ!」
「だって、あの時はお互いに若かったから……」
「その自分勝手なご都合主義で、人を振り回すのは止めろ!こいつは俺の嫁だ!10年も待って、やっと手に入れたんだ。それをお前がブチ壊すつもりかっ!」
大介は、かつて見た事もない怒りを爆発させていた。
以前から志保理に対して一貫して拒絶の意思を見せていたのに、それを享受しない彼女への怒りを露にしていた。
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