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第一章・花が咲かなきゃ実もならない 1ー①
こたつとは、とにもかくにも親交を深めてくれる最適な家具であると、正実は思った。
あれから、次第に自分から大介へと近付いていくようになり、まずは斜め隣に座り、次に同じラインに座るようになって、最後には膝の上に座るようになっていた。
「かっわいいなぁ、正実は!お前も大人になったら、匠みたいにデカくなっちまうのかなぁ」
大介はいつも通り正実を胡座の間に座らせ、背後からその赤い頬を引っ張っていた。
「大介さん頬っぺた、痛いよっ!……残念だけど、俺は兄ちゃんみたいにならないと思う。俺はチビだけど、兄ちゃんは小さい頃から体もデカかったし」
悲しいかな、正実は背の順に並んで「前へならえ」をした経験がない。
つまり、一番前以外になった事がないのだ。
スポーツ得意だったが、何故かその運動神経は、身長に結び付かなかった。
「お前はこのまま可愛いままでいてくれよ?兄ちゃんみたいにスレて汚れんなよ?」
「スレて汚れてて悪かったな」
こたつの目の前に座る匠が、恨めしそうに上目遣いで睨みながら呟いた。
「大体、何なの?!お前ら!今日は吉野も原田も来てないのに、何で正実が大介の膝の上にいるわけ?場所、あと4ヶ所も空いてんだろうが!」
こたつは6人用なのにも関わらず、正実と大介はまるで猿の母子のようにして丸まっていた。
「良いなぁ、匠。こんな可愛い弟がいて。良ければ正実を俺にくれ」
「やるか!馬鹿!……大体、お前ん所、実家は大家族なんだろ?兄弟が山程いて、うるさいって言ってたじゃん」
「俺の所、全員妹だもんよ。それも、俺の下に四姉妹だぞ?そりゃ可愛いけど、恐ろしいんだぞ?」
「あ~、俺、女姉妹はいらないわ。女は彼女だけでいーから」
「出たな、このヨゴレが。お前その内、捨てた女に刺されて死ぬぞ」
「そうだな~。それはヤバいな~。防弾チョッキみたいな防護服、買っとこうかな~俺」
「その前に、その『来る者拒まず』の精神をどうにかしろよ……」
匠は、その外見のままにロックミュージシャンのような暮らしをしていたので、女が尽きる事はなかった。
今は真弓という同じ大学の追っかけ上がりが、匠の彼女として認知されていたが、匠はあちこちで遊んでは、しょっちゅう真弓と喧嘩になっていた。
女関係で揉めると必ずメンバーが仲裁に入らされるので、大介も、吉野も原田も、ほとほと呆れている。
「こんな兄貴みたいになるなよ、正実!お前は綺麗なままでいてくれ」
「ちょっと、痛いよ!ヒゲ!大介さん!アゴをグリグリしたら、ヒゲが痛いっ!」
「あ……、正実、色白いからスレて赤くなっちまった」
「だから、やめろっつったんだよ!俺、皮膚弱いのに!」
「ゴメン、ゴメン」
そう言うと、大介は正実の赤くなった目尻に、チュッとキスをした。
正実は、瞬間で凍結した。
自分の顔の横から、キスされたような音が聞こえ、その信じがたい現実を受け入れられずにいた。
そろりそろりと大介の方を向くと、今度は鼻の頭にチュッと音がした。
「うわぁぁぁぁぁあっ!」
「何だよ。チュー位、良いだろ。最近、妹達もさせてくれなくなったから、寂しいんだよな、俺」
「俺は妹じゃない~!って言うか、妹にもヤメロ!恥ずかしいに決まってんだろっ!」
「俺は恥ずかしくない」
大介は慌てる正実へ、めげずにキスの雨を降らせた。
「ひぃぃぃい!やめて~!男からキスとかぁ!痛いっ!ヒゲが痛いっ!」
「俺のヒゲ、そこまで剛毛か?サラサラしてるだろ?ちゃんとお手入れしてんだぞ」
「お手入れするなら、剃れーー!!!」
「……仲良いのね……お前ら」
匠はもう突っ込むのも止めた。
大家族で暮らしていた大介が一人で東京に出てきて、寂しい思いをしているのも知っていたし、だから頻繁に家の晩御飯にも誘っていた。
姉妹への愛情を、正実で満たそうとする気持ちも分からなくはなかった。
正実もそれを感じたからか、途中から足掻くのをやめて、大介の好きなようにさせてやる。
だが、途中から大介が正実の髪の毛のあちこちを三つ編みし出したので、また正実が暴れ出した。
最終的に、より髪の毛の長い大介の方が正実に三つ編みされる。
髭とのアンバランスさがウケたのか、正実はこたつから出て、床で笑い転げた。
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