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第一章・花が咲かなきゃ実もならない 1ー③
「おじさんとおばさんは どうした?はぐれたんだろ?」
この声に聞き覚えがある。
まさか、まさか、と思っていたら。
「ヒゲがなくなったら、分かんねぇか?俺だよ、大介!」
「大介さん?!ヒゲだけじゃないよっ!目玉もあるっ!」
「そりゃ人間なんだから、目玉位あんだろ」
「目玉があるなんて、思わなかったっ!」
それも、とんでもないイケメンだ。
絶世の美貌をひけらかす匠が隣にいても、ひけを取らないだろう。
正実の心臓が急にドキドキし始めた。
こんな格好良い男は、雑誌かテレビでしか見た事がない。
「どうした?正実。また、頬っぺたがさくらんぼみてぇになってっぞ?」
「大介さんがオッサンじゃなくなってるし。まるで、ランディ・ローズみたいで」
「ランディ・ローズは、俺より大分可愛い顔だけどな。……ま、カッコいいって誉めてくれてんだよな?」
「う、……うん」
「そっか。さっき、無理矢理メンバーの奴らにヒゲ剃られて、前髪切られたんだけど。……ま、正実がカッコいいって思ってくれたなら、オッケーかな?」
大介は自分の携帯から、匠に連絡を取ってくれた。
ライブ前には返すから大学祭を連れて廻りたいと言って、楽屋入り時間を約束していた。
「お前の親にも連絡して貰うように言ったからな。一緒に廻ろう」
「大介さん……。でも、音合わせは?」
「さっきやったし、30分前には帰るよ。それよか、俺は可愛いお前を連れて廻りたい」
「恥ずかしくないのかよ?小学生なんか連れて」
可愛い彼女なら分かる。
だが、自分はどこをどうひっくり返しても子供だし、見方によっては実年齢よりも幼く見えた。
年頃の大学生が、連れて歩きたい筈がない。
「何で恥ずかしいんだよ。お前みてぇな可愛い奴、なかなかいないぞ?俺の弟だって言って廻ろうかな」
そう言えば大介は、あまり羞恥心のないタイプだった。
よく言えばおおらか、悪く言えば無神経と言うやつで。
正実の方がどうしたものかとモジモジしていると、大きな手が差し出された。
「ほら、手、繋ぐぞ?今度は迷子になるなよ」
正実の白く小さな手が、それに重なる。
すると、その触れた部分から電気が流れたようになって、全身が痺れた。
そして大介は、その手を包むようにグッと握り締めて来る。
大介の大きな手が暖かくて、正実は嬉しくて、苦しくて、ドキドキとさせられた。
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