第一章・花が咲かなきゃ実もならない 1ー③

1/1

56人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ

第一章・花が咲かなきゃ実もならない 1ー③

「おじさんとおばさんは どうした?はぐれたんだろ?」 この声に聞き覚えがある。 まさか、まさか、と思っていたら。 「ヒゲがなくなったら、分かんねぇか?俺だよ、大介!」 「大介さん?!ヒゲだけじゃないよっ!目玉もあるっ!」 「そりゃ人間なんだから、目玉位あんだろ」 「目玉があるなんて、思わなかったっ!」 それも、とんでもないイケメンだ。 絶世の美貌をひけらかす匠が隣にいても、ひけを取らないだろう。 正実の心臓が急にドキドキし始めた。 こんな格好良い男は、雑誌かテレビでしか見た事がない。 「どうした?正実。また、頬っぺたがさくらんぼみてぇになってっぞ?」 「大介さんがオッサンじゃなくなってるし。まるで、ランディ・ローズみたいで」 「ランディ・ローズは、俺より大分可愛い顔だけどな。……ま、カッコいいって誉めてくれてんだよな?」 「う、……うん」 「そっか。さっき、無理矢理メンバーの奴らにヒゲ剃られて、前髪切られたんだけど。……ま、正実がカッコいいって思ってくれたなら、オッケーかな?」 大介は自分の携帯から、匠に連絡を取ってくれた。 ライブ前には返すから大学祭を連れて廻りたいと言って、楽屋入り時間を約束していた。 「お前の親にも連絡して貰うように言ったからな。一緒に廻ろう」 「大介さん……。でも、音合わせは?」 「さっきやったし、30分前には帰るよ。それよか、俺は可愛いお前を連れて廻りたい」 「恥ずかしくないのかよ?小学生なんか連れて」 可愛い彼女なら分かる。 だが、自分はどこをどうひっくり返しても子供だし、見方によっては実年齢よりも幼く見えた。 年頃の大学生が、連れて歩きたい筈がない。 「何で恥ずかしいんだよ。お前みてぇな可愛い奴、なかなかいないぞ?俺の弟だって言って廻ろうかな」 そう言えば大介は、あまり羞恥心のないタイプだった。 よく言えばおおらか、悪く言えば無神経と言うやつで。 正実の方がどうしたものかとモジモジしていると、大きな手が差し出された。 「ほら、手、繋ぐぞ?今度は迷子になるなよ」 正実の白く小さな手が、それに重なる。 すると、その触れた部分から電気が流れたようになって、全身が痺れた。 そして大介は、その手を包むようにグッと握り締めて来る。 大介の大きな手が暖かくて、正実は嬉しくて、苦しくて、ドキドキとさせられた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加