二人で一人

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二人で一人

「それにしても、もう少し前から計画を教えて欲しかったぜ。正直、どうしてこんなふうに出れたのか分かってねぇんだよな」 「ツインに前もって言ってたら、なんかポロッと誰かに言っちゃいそうじゃん」 「信用ねぇなぁ。ちょっと否定出来ないけど」  ツインは笑う。確かに、ロミオやリヤ、オセロあたりにこっそり言ってしまいそうだ。 「でもあの薬苦しかったなぁ、マジで死ぬかと思った」 「うん、仮死状態にする魔法薬、急ごしらえだったから飲み心地良くするひまが無かったんだ」  二人は話しながら墓場の中を歩く。  ジェミニが道を知っているらしく、少し前を立って歩く。 「結界の外から買ってきてもらった小説に、同じように仮死状態になる薬で死んだふりをしてカップル二人で逃げようとした話があってね、そこからヒントをもらったんだ。……でね、その小説の主人公の一人の名前がロミオと同じだったからよく覚えてたんだ」  そうジェミニが話しながら歩いて行った先は、墓場の出口だった。そこには大きな鞄が2つ置いてあった。 「…これ…」  見たことがある鞄を手に取り、ツインは絶句した。自分がいつも使っている鞄だ。中身は、着替えやら食料やら。  隣の鞄はジェミニのものだ。 「誰が、これを?あ、オセロ達か?」 「いや、オセロ達は何も知らない。これは、おばさん…ツインのお母さんだよ」 「え?」  ツインは驚いて、また鞄を見つめた。 「ババァも……知ってたのか」 「知ってたっていうか、おばさんの協力がなきゃ無理な計画だよ。薬の開発したのもおばさんなんだから。僕にはこんな仮死状態にする魔法薬なんて高度技術は無いよ」 「ババァが、ジェミニに協力したのか」 「うん、ずっと、ずっと協力してくれてた」 「ババァはいつもジェミニを殺そうとしてた。ここ数ヶ月はそれが顕著で…」 「わざとだよ。ずっとこの日の為に、ツインを溺愛して僕を殺してもおかしくないって周りに見せつけてた。まあ、溺愛は本当だけど」 「そんな…俺…」  どんな想いでジェミニへの殺意を偽造していたのか。それに対して憤り、悪態をつく息子にどんな気持ちだったのか……。  ツインの目からは涙がこぼれ落ちた。  思い出してみれば、最後の声、ツインが薬を飲み苦しんでいたとき、 『辛いの?辛いのね?』と嘆いていた。  普通なら突然苦しんでいるのを見たら、「どうしたの?!」となるはずだ。  あれは、自分の作った薬で苦しんでいるのを知っていたからこその声だったのだろう。 「おばさんは本当にうまくやってくれた。薬も作ってくれたし、長老魔女にツインの自殺願望を見せるのもうまくやってくれた。……まあ、少し長老魔女の醜悪さが想像を超えてて焦ったけど……」  ジェミニは座り込んで涙を流すツインの肩を掴んで、優しく言った。 「自分が悪者になってまで、僕が薬を飲むのを誘導してくれたし……」 「なんか詳しいことはわからないけど……」  ツインはぐっと鞄を握りしめた。 「嬉しい」 「そうか。良かった」  ジェミニは微笑み、そして自分の鞄も見つめる。  自分の鞄にも着替えやら食料やら必要なものが揃って入っている。これを準備できるのは、ツインの母親には無理だ。そう、ジェミニの母親でなければ準備できない。 「気づいてたのかな?」  それはもう確かめる術はない。  二人はそれぞれの鞄を持って墓場の外に出た。  外はまだ夜なので真っ暗だ。しかし気持ちが晴れ晴れしているせいか、なんだか眩しく感じる。  墓場の外に出て、狭い路地を抜ける。 「手、繋いでいこう」  ジェミニはふとツインに笑いかける。ツインは苦い顔をした。 「何でだよ。誰かに見られたら変に思われるだろ」 「こんな夜中、誰も見てないよ。それにさ」  ジェミニは半ば無理やり手を掴む。 「ちょっと不安なんだ。だからツインに手を握っててほしいんだよ」 「……じゃあ仕方ねぇな」  そう言いながらツインはジェミニの手を握り返す。ほんとはツインの方が不安でしょ、なんて野暮なことはジェミニは言わない。 「それにしても、ごめんね」 「何が?」 「怖かったでしょう。僕が、その…」 「俺を襲ったこと?」  ジェミニは無言で頷く。ツインは立ち止まり、少しだけ目をつぶった。 「怖かったけど……でも全部俺の為だったんだろ」 「ツインに死にたいって言わせる程だった」 「あれは…ツインが怖くてとか、失望してとかじゃなくて……うん、そんなんじゃねぇから」  自分に失望したのだ、と上手く説明できない気がしてツインは口をつぐんだ。 「ともかく、謝らなくていい。むしろこっちがお礼言うべきだろ」 「……え?もしかしてツインはドM…」 「何でだよっ」  ツインはジェミニのほっぺをつまんで強く引っ張って見せる。 「痛いよぉ」 「……ありがとうな、ジェミニ」  そう言って撮んだほっぺを離すと、先にあるき出した。 「さあ、行こうぜ。これから色々あるだろうから、過ぎたことなんて気にしてらんねえだろ」 「そうだね」  ジェミニはツインを追いかけた。  そして手を握る。 「一緒に行こう。だって僕達は二人で一人なんだから」 end
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