二人の男の子

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二人の男の子

 二人の男の子が生まれてから17年が経った。 「ジェミニ!起きてるか?」  突然窓から声をかけられ、ジェミニは目を覚ました。まだ薄暗い。 「何だよーまだ早いじゃない」 「いいだろ。ちょっと付き合えよ。ジェミニが必要なんだよ」 「えー、どうせツインが必要なのは僕じゃなくて僕の力でしょう」 「よくわかったな」  ツインは悪びれもなく言う。  ジェミニは渋々ベッドから出ると、簡単にコートだけ羽織った。 「さあ、お願いしますよ、ジェミニ」 「じゃあしっかり掴まっててよ。どこまで行くのかな?」  そう言ってジェミニは目をつぶって念じる。ツインはジェミニの腕を掴む。  すると二人はふわりと浮いた。浮いたまま空中を素早いスピードで進む。 「あの向こうの森。朝方に宝石虫が採れるんだ」 「好きだねえ」 「宝石虫がなかなか捕まえれないんだぞ!朝方だと結構出るって聞いたんだ」  ツインはキラキラした顔で言う。  もういい年して虫取りなんて……と言いたそうな顔でジェミニは苦笑する。それでも付き合ってあげてるんだから、ジェミニは優しい。そしてツインはその優しさに思いっきり甘えている。  ジェミニとツインは、あの日、二人同日に産まれた男子だ。  二人のうち、どちらかはいずれ消される、と言われていたが、一緒に育てられた二人は、特に険悪になる様子もなく、ごく普通の兄弟のように接している。 「ほら、ツインついたよー。この辺でいい?」 「おうっどうも!」  そう言うとツインはジェミニの手を離す。結構な高さだったが、ツインは華麗に着地をする。  ジェミニはツインの後でゆっくり降りる。 「いた!いたぜ!ほらあの赤いの!」  ツインははしゃいだ声を上げて駆け出す。すぐに戻ってきて、手には真っ赤な宝石虫が握られていた。 「ほら!ジェミニの目みたいに綺麗だろ?」  ツインだけである。ジェミニの目を綺麗だと言うのは。他の人は、母親ですら、不吉な目だと言うらしいが、ツインには全く理解できない。 「キレイだけど…僕はそんなに、虫に興味ないしなぁ」 「まぁそう言うと思ったけどな」  そう言いながらツインは籠に虫をしまった。 「今日付き合ってくれたお礼。パン持ってきた」 「え?お礼なんて珍しい」 「ありがたく食べろよ」  ジェミニは嬉しそうにツインからパンを受け取る。ツインは自分の分を一口で食べてしまう。 「俺もう少しだけ探しに行くから、ゆっくり食ってていいからな」  自分の探索の間ジェミニが暇になると思ったツインなりの気遣いだった。いつもはそんなこと気にせず勝手に行動するのだが、一応気遣いを覚えたつもりだ。 「魔法も使えないのに、無理しちゃって」  ジェミニが愛おしそうにパンを撫でていたのに、ツインは気づいてはいなかった。  しばらくしてツインは帰ってきた。 「あとはいいの?帰る?」 「ああ。早く帰らないとババァに叱られる」 「じゃあまた、つかまって」  ジェミニはまた目をつぶって念じる。二人はふわりと浮き、すごいスピードで家路につく。 「ありがとな。ジェミニのおかげだ」  ツインを家に送り届けると、ツインは笑顔でジェミニにお礼を言った。 「ううん、いいよ。またいつでも一緒に出かけようよ。そして……ねえ、ツイン、今日こそはプエルの家にも顔を出してよ」 「……」 「みんな心配してるよ。パン作りも教われるかもよ」 「ああ、今度な」  ツインはもう笑顔では無かった。そのまま振り返らずに家に入ってしまった。  ジェミニはふぅ、とため息をついた。  ツインは二番目に産まれた男子だ。  ごく普通に健康で丈夫で、元気いっぱいに育った。  病死もほとんどせず、運動神経も悪くない。小さい時から山で虫捕りをするのが何よりも好きで、今でも周りに呆れられるほど山にいることが多い。  一方のジェミニは一番目に産まれた男子だ。  肌が白いせいかあまり陽の光の元を歩けず、目の色のせいか視力も弱く、健康で丈夫とは言い難い。しかしずっと本を読み、色々な人とお喋りをしていたので頭は良かった。  そして、そして。ジェミニは10歳になったある日、魔法が使えるようになったのだ。  男子が魔法を使えるなんて、長い魔法族の歴史の中で一度も無かった。 「きっと消されるのは自分だ」  ツインはずっとそう思っていた。  小さい頃は、心のどこかで、体の弱いジェミニよりも自分が生き残るだろうと思っていた。しかしジェミニが魔法を使えるようになると、明らかに周りの目が変わった。  ジェミニを不吉なものとして扱う一方で、神格化する者も現れたのだ。  ジェミニを消してはいけないと高らかに主張する声がツインの耳に不遠慮に入ってくる。  それでもジェミニを妬んだりする気持ちにはならなかった。  ジェミニは魔法をいつもツインのために使ってくれる。 「僕の魔法は、ツインのものでもあるんだよ。だって僕達は二人で一人だもん」  ジェミニはいつもそう言って笑う。  そんな彼が一緒にいる間だけは、消すとか消されるという事を忘れる事が出来た。  それは多分ジェミニも同じだったのかもしれない。不安や寂しいときにはいつも二人は一緒にいようとするのだった。
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