置き土産

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置き土産

   その日の夜、ツインはジェミニの家に泊まり支度をしてやってきた。  ジェミニの母親はツインを見るとジロリと睨んだが何も言わなかった。 「ようこそー」  部屋に向かうと、ジェミニが笑顔で出迎えた。 「お泊りなんて久しぶりだよね。昔は結構やってたけど」  ジェミニはいそいそとお茶を入れる。 「色々お喋りしようよ。今夜は寝かせないよー」  あまり悲観している様子は見せないようにしているようだ。  一応布団は敷いておくねー、とジェミニは支度をする。 「どうした?全然喋らないじゃん」 「あ、ああ、悪い」  ツインはようやく声を出した。 「何だか、何話そうか考えながら来たら…ちょうど訳わかんねぇ状態になってた」 「普通にしてよーもう」  ジェミニは口を尖らせる。 「じゃあツイン様をまずは落ち着かせましょうか」  そう言ってジェミニは空に指で何かを描く。そこに美しい宝石虫が数匹現れた。 「うわぁ」  ツインは思わず感嘆の声を上げる。 「幻だけどね」 「あの、こういう魔法って封じられたりしなかったんだ。自暴自棄になって何かしでかす可能性とか考えそうだけど」  ふと疑問をもってツインはたずねる。 「信用されてるんだよ」  ジェミニは短く答えたが、何かを隠している、とツインは確信していた。しかしジェミニ相手にうまく聞き出す自信も無かったのでそれ以上は何も言わなかった。  それから二人はお茶を飲みながらいろんな話をした。小さい頃の話、魔女たちへの愚痴、ロミオやリヤ、オセロの事、もっと小さい男子達の事、魔法の事、虫の事、外の世界の事……。他愛もない話だ。 「そういえば、オセロを飛ばせてあげたのか?」 「あー、ううん。約束、破ることになっちゃうね。怒るかな、オセロ」 「怒るよきっと」  ツインは少し笑って見せる。  夜も更け、少し眠くなってきた頃、ジェミニは少し小声で尋ねた。 「ツインは、どうなるかな?」 「どうなるって?」 「魔女との性行為。ほとんど勉強してないんでしょ」 「あー…」  耳が痛い。 「まぁーどうにかなるだろ。何だか俺が全然性行為の勉強してない事は偉い魔女の耳にも入ってるらしいし」 「あんまり無理はさせないよね、多分ベテラン魔女と初めはやらせるのかな」 「別に誰でもいいよ」  ツインは面倒くさそうに顔を背ける。 「今はあんま考えたくねぇよ。どうせ後から嫌でも考えなきゃならねぇんだし」  そんな様子のツインを、じーっと黙ってジェミニは見つめる。ジェミニの目線に違和感を感じたツインは慌てて言い訳をする。 「いや、ちゃんとするよ。ちゃんと。ジェミニの分も」 「僕の分も?」 「あ、いや、うんほら」  何だかジェミニの赤い目が怖い気がした。 「ちゃんと、あの、やるから」 「無理だよ」  ジェミニはいつの間にか笑顔が消えて無表情になっていた。 「怖いんでしょう?魔女の事が。性行為なんて全然したくないんでしょ」  ジェミニはツインに顔を近づける。そして手首をぐっと掴んできた。 「あ。な、何だよジェミニ」 「ねえ、ツイン……性行為が気持ちいいモノだって、知らないんでしょ」 「はっ?」  ふと気づくと、ジェミニに掴まれていた手首が動かない。 「何だよこれ…」 「ちょっと、ね」  ジェミニは魔法を使うときに動かす指の動作をして見せる。どうやら魔法でジェミニの手首を拘束したようだ。 「は?ちょっとふざけるなよ」 「ふざけてないよ。でもほら、僕はツインより力が無いからさ、抵抗されると負けちゃうからちょっとハンデ」 「いやいやいや、何だよ抵抗とか。最後の夜だろ。変な冗談でケンカとか時間の無駄だ」 「冗談じゃないってば」  ジェミニはそう言ってツインの身体を軽く押した。油断していたツインは、『念の為』敷いてあった布団に背中から転がった。  手首を拘束されていたので、すぐに身体を起こせなかった。 「おい、ちょっと本当に……」 「ねぇ、これからのツインの人生、気持ちいい性行為なんてほとんどないと思うよ。僕達が勉強していたのは繁殖の効率的な性行為の方法だったしね」  ジェミニは転がったままのツインを抑えながら、ごく普通の日常会話でもするように話しだした。ツインは起き上がりたかったが、ジェミニの力が思ったより強くて寝転んたままだ。 「外の世界にはね、繁殖を目的としない性行為も多いんだってさ」 「なんだそれ」 「コミュニケーション目的とか、快楽目的とか、色々あるんだって」  ジェミニの目に、妖しい赤い光が灯る。 「ねえ少しだけしてみよう。死にゆく僕からの置き土産だよ」
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