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地獄
「いやいやいや、ちょっと落ち着けって。何言ってんだよ。意味わかんねぇ」
ジェミニが冗談だと言ってくれることを期待して、ツインは拘束されている両手でボンボンと暴れた。しかしすぐに抑えられる。
「意外に力強いんだな」
「知らなかった?僕男子だしね」
ジェミニのセリフに一瞬ツインは目をそらす。たまに女の子みたいだと思っていたことを見透かされたようで居心地が悪かった。
ジェミニはツインに馬乗りになる。そしてツインの顔を両手で覆い、口吻をしてきた。
「ふっぐっ」
驚いて思わず声が上がる。
ツインは顔をそむけて口を離した。
「何、すんだよ!息できないじゃねぇか!」
「え?キスも知らない?」
「さすがに知ってる!愛撫の一種だろ!でも…やった事はねぇし!そもそもお前とやるものじゃねぇ」
「え?どうして?」
「それは……いや、だってお前は」
「僕は何?」
「お前は友達だ。愛撫の必要ない」
「必要ない?」
「そうだ」
ツインの言葉に、ジェミニは寂しそうに笑った。
「必要とか、必要じゃないとかじゃなくて。嫌だった?」
「嫌だった」
ツインはキッパリ言った。
「意味がわからない。なあ、早くどけてくれ。そしてこの手首の離せよ」
「嫌」
ジェミニはそう言うとまた口吻をする。今度はさっきより強い力で顔を押さえつけられた。
「なっ!」
ツインは抗議の声をあげようと少し口を開けた。その隙間にジェミニの舌が入ってくる。
「おま……」
ツインは声を上げるのを諦めた。その間にジェミニは何度も舌で口をもてあそぶ。上顎を愛撫のように撫でまわす上に、ピチャリ、ピチャリとわざと唾液をまとわりつかせくるので、ツインは口だけでなく耳まで犯されているような錯覚を感じた。
しばらくすると、息がうまく出来無いのもあって、ボーッとしてきた。
「かわいい顔」
ジェミニはようやく口を離し、ボソッと呟く。
「ねぇ、その先してもいい?」
「……は?ふざけるなよ……」
呼吸がまだ整っていないツインが睨みつける。
「ふざけてないよ?真剣だよ」
そう言うと、ジェミニはツインを優しく抱きしめる。
「ねぇ、僕はずっとずっとこうしたかった。僕らは二人で一人だから。だから自分の片身を愛してあげたかったんだよ」
「変態」
「そう?ツインだって、少なからずそう思ってくれてると思ってたけど」
ジェミニは少し意地悪そうな目で見てくる。ツインは目を伏せる。
「……そんなこと」
無いとは言えないかもしれない。
けれども、今の状況を受け入れるというのは訳が違う。
「なぁ、わかったから、手首だけでも放してくれよ…」
ツインは懇願するような声をあげた。どうにかしてこの状況から抜け出したいのだ。
「全部、終わってからね」
ジェミニは鼻歌でも歌うかのようにツインの身体を優しく触っていく。
………
…そこからはツインにとっては地獄だった。
ジェミニか優しくツインの肌に触れていたのは初めだけだった。舌を首筋に這わせると、そのままゆっくりと下に下ろしていく。それは、本に書いてあった、性行為の愛撫そのものだった。
「俺にそんな事してなんの意味があるんだよ!愛撫の必要なんて……あっ……」
「ふふ、気持ち良いでしょう」
ジェミニは楽しそうに、ツインの胸を舐めながら性器を優しく触れる。
敏感なところをしつこく触ったり、逆に触らせたり。激しくされたり。
人に与えられたことのない刺激を与えられたり。
段々と変な気持ちになっていくのに、ツインは耐えられなかった。
何度もやめてくれと頼んだが、ジェミニは一切聞かない。それどころか更に酷くしていくのだ。
ツインは強い快楽を感じてしまった。頭が真っ白になり、意識が一瞬遠のいた。その途端に気持ちがいいのに不快なものが放出された。
「どうして、こんなヒデェ事すんだよ……やっぱり俺の事を恨んでるのか」
ツインはとうとう半泣きになってしまった。ツインの泣き顔に、ジェミニはキョトンとしている。
「恨む?」
「俺が生きて、お前が死ぬから…」
「そんなこと全然ないよ」
「お前は、俺が死ぬなら自分も死ぬって言ってくれたのに、俺はそんなこと出来ないから……」
ツインはずっと心の中で悩んでいたのだ。
自分は怖くて、ジェミニの後追いで死ぬなんて出来ない。でも本当は、ジェミニは一緒に死んでくれる事を望んでいるのではないか……。
「ばーか」
ツインはデコピンされた。
「そんなわけないでしょ。僕はツインには生きてほしいと思っているよ」
ジェミニはツインの耳元に顔を寄せ、赤い目を光らせて冷たく言った。
「ツインは生きるんだよ。この地獄の一生を」
ジェミニの冷たい声に、ツインはビクッと身体を震わせた。
その途端、ジェミニはツインの首に手をかけた。
「ねえ。気持ちよかったでしょう?でももうこの快楽は味わえないね。だって明日からツインは魔女たちの種馬だもん。ただただ業務的に性行為をしていくだけだよ。どうする?こんな気持ちいいの味わっちゃって」
ジェミニはクスクス笑う。笑いながらツインの首を片手で軽く締める。
「ぐっ……やめ……ろ」
「少しだけこうしたらもっと気持ちよくなるんだってさ。ほらほら」
首を片手で締めたまま、再度性器に触れようとする。
一体こいつは誰だ。
ツインは思った。
いつもニコニコして、優しくて、甘やかしすぎなあのジェミニは一体どこへ?
この恐ろしい赤い目の化け物は一体誰だ。
酸素が足りず朦朧とした頭でそう考えた瞬間、恐ろしいほどの自己嫌悪が襲ってきた。
「……たい…」
「え?何?」
小さく呟いたツインの声を聞こうと、ジェミニは首から手を離した。
「死にたい」
「……」
「死にたい」
ツインは何度もうなされるように呟いた。
ジェミニに裏切られた。
それとあと一つ……。
ジェミニが優しいと思っていたのは自分の幻想だったかもしれない。ずっとずっと、ジェミニは本性を隠していたのかもしれない。
そんなジェミニを化け物だと思ってしまった。
それが一番の自己嫌悪だ。
魔女たちがジェミニを化け物扱いしていても、優しいジェミニでも、こんなジェミニでも、自分だけは、自分だけは!ジェミニを化け物だなんて思ったりなんかしないと思っていたのに!
ツインは自分に絶望した。
ジェミニはツインのその言葉を聞くと、険しい顔をした。
そしてツインの耳元に口を近づけて、何かをそっと呟いた。
ツインは目を丸くすると、そのまま疲れたように静かに目を閉じた。
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