ゼロ円札

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 目が覚めた。ここはどこだ。俺は死んだのか? 真っ暗だ。何も見えない。耳は聞こえる。コポコポと、水の泡の音が断続的に聞こえてくる。それを聞いていると、懐かしいような、安心するような気がしてくる。  五分後くらい(といっても時計など何もないので体感でしかないのだが)何もない空間に飽きた。コポコポという音に、少し苛立ちを感じてくる。  この空間から出ようにも、出口も見えないし、手も足も見えない。というか、手足の感覚がない。なんだ、これは?  コンコンとガラスを叩くような音が聞こえた。 「ご機嫌いかがですか?」  誰だお前は? と言いたくても声が出せない。 「ああそうそう、さっき一つ言い忘れていました。貴方が使ったゼロ円札は、二十二年分です。ですからここで、これから死ぬまで二十ニ年間頑張って返済してくださいね。そうすると返済完了時には貴方は六十二歳、もう精神の限界が来てしまいますね!」  人を苛立たせるような楽しげな声はつづく。 「でも安心してください! 貴方が認知症になって何も分からなくなったあとも百二十歳で寿命を迎えるまで、引きつづき、貴方の脳は有効活用させていただきます!」  なん……だと!? それってつまり、百二十歳になるまでこれから八十年、この真っ暗な部屋から出られないだと!? つまり、死ぬまで!! おい! ふざけるな!! おい! 待て!! おい!! 嫌だ!! 嫌だ!! おい!! 開けろ!! 出せ!! 出してくれ!! 俺をここから出してくれ!!!!!!! 助けてくれ――!!!! うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
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