ゼロ円札

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 俺は旅人と別れ、酒場を後にした。真っ暗なゴミだらけの街を鼻歌を歌いながら家へと向かう。六畳一間のボロアパート……金ならいくらでもこのゼロ円札で引き出せるのだが、俺にとってはそれだけあれば十分だ。 「さてと」  ボロいドアを閉めて、人ひとりは入れるかどうかぐらいの狭さの玄関で靴を脱ぐ。ドアポストに入れられたスーパーのチラシと督促状を取り出しゴミ箱に捨てた。  ちゃぶ台に腰掛けてテレビを付ける。しばらく深夜ドラマを見ていたら眠くなったので、押し入れから布団を出して敷く。ちなみに、テレビも布団も、この家にある家具は、すべてゼロ円札で買ったものだ。俺は寝具にはちょっとうるさいので、羽毛布団と枕は最高級のものを買ったのだ。  ふかふかのお布団に寝っ転がっていると、だんだん気持ちよくなってきて意識が遠くなっていく。  午前六時半。起きた。歯を磨いて、ハムエッグを作った。カーテンを開けると、通勤途中のスーツ姿の人が見えるので、それを見ながら朝食をとるのが日課だ。 「いくらでもゼロ円札で金を引き出せるのに、ご苦労なこったな」  卵の黄身を崩しながら、バスが到着しつつあるバス停へと全力疾走するサラリーマンを見ていると優越感を感じずにはいられない。  お前らは今から仕事だが、俺はこれからゲームをするぜ! がはは!
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