ゼロ円札

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 二人がやって来たのは、少し暗いが暖色系の明かりの灯る、ウッディーな内装のお洒落な酒場だった。ムーディーな音楽が流れている。 「いい雰囲気のお店ですね」 「だろう! 俺のお気に入りさ」  カウンターで、マスターが次々にボタンを押していく。そのたびに、縦長のカクテルグラスに色付きの液体が注がれていく。七回ボタンを押し終わって、カウンターの旅人の前に、グラスがコトリと置かれる。 「レインボーカクテルです」 「すみません、お先にいただきます」 「気にするな。今日は俺のおごりだ。他に飲みたいもんや食いたいもんがあったら遠慮なく言えよ! これがあるからな!」  そう言ってゼロ円札を懐から出す。酒場の照明に当てられて、端がキラリと光った。  夜七時になり、壇上ではセクシーな女性たちが出てきてポールダンスをしている。客もたくさん入って来て、酒場は賑わっている。 「この国に移住しようか、本気で検討しています」  酔いで少し顔を赤らめた旅人がそう言った。 「ああ、いい選択だと思うぜ」  俺はペールエールを(あお)った。
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