ゼロ円札

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 翌朝、激しい頭の痛みで起きた。昨日飲み過ぎたせいだ。くそっ! 頭がガンガンガンガン! イライラする! 今までは二日酔いなんてしたことなかったのに、年のせいか。  そういえば来月で四十歳だ。ケーキでも買おうか……いや、その前に病院に行って薬を貰おう。  病院なんて、行くのはいつぶりだろう。高校生のときにコロナになって母親の車に乗せられて行ったのが最後かもしれない。保険証、保険証……ない。まぁいいか、多少自己負担が増えようとゼロ円札があればいくらでも金は払える。  ポケットにゼロ円札だけをねじ込み、部屋を出る。と、目の前に大家が立っていた。 「おい! アンタ! 郵便受けがいっぱいだよ!」 「すみません! すみません! 今片づけます!!」  仁王立ちして大声でわめきたてる彼女に、必死で頭を下げる。 「アンタ、他の人の迷惑とか考えたことあるんかねぇ」  嫌みったらしくそう言って、ため息をつくと自分の部屋に引っ込んだ。威張り腐りやがってこのクソババアがよ! 資本主義の犬め!  ガンガン痛む頭を押さえ、共用の郵便受け所から自分の郵便受けを探す……手間もなく大量の督促状で溢れていた。それらを全部引っ張り出し、両手に抱えて家に戻る。  ゴミ箱に入りきらなかったので、まとめてポリ袋に入れて口を縛った。これでよしと。可燃ごみの日に持っていこう。さて、病院に行って頭痛薬を貰おう。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加