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27話
※暴力的シーンがあります。ご注意くださいませ。
ペーター・ペペ・ピクシーアイランドは私の幼馴染で許嫁だった。
たくさんいじわるされて大嫌いだったけど、
今日の私は彼に感謝しなくちゃならない。
バトルだとか戦法について毎日聞かされていたおかげで、
それがいつしか私の中で蓄積されていたのだ。
「起きろー! 起きんかー若ぼうず~~!」
湖畔に戻ってくると、オンチドードーもゼイツ准将もまだそこにいた。良かった、連れて行かれてなかった。オンチドードーは私を追うどころか、蜂蜜を嫌がって毛づくろいしていた。
准将は未だ寝た状態で、その彼を起こそうとしてツリービアードが叫んでいる。
待っててゼイツ准将……! 今助けるから!
私の手には剣の代わりの、とがった枝がある。
彼らからすると、枝だけが宙に浮かんでいるように見えるはずだ。
体の後ろに隠したところで、真っ裸の透明だから透けちゃうんだ。
ツリービアードに見つかって騒がれないよう、木立にひそみながら、私はオンチ鳥へ忍び寄った。
ごくり……。
人でもあり、鳥でもあるオンチドードーの無防備な後ろ姿。
いざ背後に立つと私は二の足を踏んだ。
生き物に危害を加えるなんて、やっぱり抵抗がある。
だけど……このままじゃゼイツ准将が連れて行かれちゃう。
か、彼を守るのよ、フェルリナ。
えいっ!
びっくりしたオンチ鳥がバッと半回転する。驚いた顔の、強烈なアイラインがまぬけに見える。
もう一度、えいっ!
また枝で突くとオンチ鳥は後ろへぴょんと跳んだ。一体何が攻撃してきたのかと、瞳孔がピント合わせをしている。
「ルウッ? ララッ?」
動揺してる。私が枝を振り上げると、気づいた彼女は翼をせわしなくはためかせながら、湖の水面を後ろ向きに走った。鳥がそんな事するの初めて見た。やはり頭脳は人間なのだ。
って感心してる場合じゃない。湖の上で空中静止されてしまい、私はどんぐりや石をつかんで彼女へ投げた。
私の翅ではとうてい真似できない芸当。いいな空飛べて!
「ララッ! お前フェアリーだな!」
オンチドードーが目の色を変えた。上昇していったかと思うと、こちらめがけて滑翔してきた。
逃げるからこわいんだ。立ち向かえばそうでもない。つっこんでくる直前、私は枝先を彼女に向けて槍のように構えてみた。
ブアアッ ズキィンッ!!
くらった! オンチ鳥に枝がぶつかった。頭脳が人間なら、目玉も人間。鳥のような動体視力はなかったのだ。
だが私もくらった。衝撃に吹き飛ばされた。
ひゃああっ。
ベシャッと水辺に倒れた。
泥跳ねを浴び、慌てて四つ這いになって立ち上がる。自分の体がこげ茶色に形をなしていた。
「おのれ卑怯者のハエ虫がァ!!」
泥だらけで私は逃げ出した。ゼイツ准将の横を走り去った。
ツリービアードが私に気づいた。「お前さんなぜ戻って来たんじゃ!?」
「!!」
ブツッ
すぐに例の、ゼイツ准将を眠らせた羽根が飛んできたけど、それは私の背中の翅がはたき落としてくれた。
バシッ バシッ
続けざまにもう二回投げつけられた。
これに当たって眠ってしまったら一巻の終わりだ。絶対に当たるわけにいかない。
「ハァ、ハァ、こわいッ、ううっ」
オンチ鳥、相当ムキになっている。
「っ!?」
私の足が地面から離れた。
肩をつかまれて空へと急上昇していく。
「イヤッ!!」
「飛べないハエ虫ゴミ虫ゴミゴミゴミ♪ 落下して死ね!!」
息ができなかった。私は太陽の前に放り出された。
ビョオッ
と風が私の羽を凧のようにさらった。
大樹の樹冠にバッサリ受け止められ、枝葉の間を転がるようにして落ちる。
最後に羽のパラシュートで地面へ手をついた。
落下した場所は完璧な位置だった。まるで風が、森が、ジョニーが、私の味方してくれてるみたいに感じた。
私の目的は、私自身の手で彼女を倒そうとしている、オンチ鳥にそう思い込ませることだった。
卑怯な手を使って、相手の頭に血を昇らせることで、冷静な判断力を奪う。
ずる賢いピクシー族のペーターが教えてくれたことだった。
「やめてやめて来ないで!」
私は尻もちをついたまま後退した。
白濁した目を血走らせて、オンチ鳥が突撃してくる瞬間、
私はすぐそばの木の根ぐらに潜りこんだ。とっさに逃げ込んだように見せたそこは、土のトンネルになっていた。
「悪あがきしやがって!」
バサササッ 私を追ってオンチドードーが潜りこんできて光が遮られる。
ハァッ ハァッ 怖い。
行き止まりのカーブ地点で、土壁に身をよせ私はへたり込んだ。
「おね、おねがい……助けて……」
茶色い瞳が私を見ている。
「飛べないハエ虫♪ ゴミ虫♪」
オンチ鳥がすぐそこまで来ている。
「おねがい……たすけてぇ……」
のっそり起き上がった巨体が、その場で激しくドルルルルルルッと毛皮を震わせる。
そして、私の前をすり抜けていった。
「バウッ! ガウウッ!」
「!? ギャッ!! ギャアアアッ!!」
ここはホシカゲグマのねぐらだった。木々を透視して見つけておいたのだ。
熊は、妖精は食べない。
彼らの好物は、あなたの顔にべったりついたハチミツなの。
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