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29話
「…………」
私もツリービアードもあいた口が塞がらなかった。
思えばオンチドードーが現れてすぐ、准将が靴紐を結ぶふりをして何かを拾っていた。
あれ、どんぐりだったんだね。耳にどんぐりをいれていたから私の悲鳴が聞こえず、爆睡していたってわけ……?
「……歌声を警戒して先手を打っておいたのか。賢いようじゃが、それがウラメにでるとは……」
「ナンジャ爺ここで何やってんだ? おれたちの後つけてきたのかよ?」
「!? 尾けられるかァ!! ワシャここに生えとるボダイジュのボダイ爺じゃ! 動けるもんならとっくに動いとるっちゅうねん! ひとの気も知らんでまったく……ブツブツ」
「フェルリナの怪我どーすりゃいいんだよ?」
「そこに生えてるイタミマヒマヒ草を貼って、布で縛れ!」
ハート型の葉っぱをむしったゼイツ准将が、シャツを脱ぐ。
私の左手首をとって、まじめな目をして葉を当てて、「ちょっと押さえてて」と言う。シャツで縛ってくれた。
「あ、ありがとう……」
「んでトリ頭はどうなったんだよ?」
私とボダイ爺の目が合った。
「あ、勝ったよ」
私は精一杯はにかんで言った。
今は話せそうにない。怪我の手当てしてくれた優しさだけで、胸がいっぱいになっちゃった。
「動物クイズ出されて、楽勝だった」
「ふうん。良かったな、空き缶もらえて」
ニッと准将がわらう。
うん、この笑顔を守れて、本当に良かった。
♡ ♡ ♡
戻ってきた私たちをナンジャ爺が待っていた。
「そのドラゴンは一体……なんじゃ?」
ゼイツ准将はウィングイーターを引きずっていた。
せっかくの三ツ星天然記念物だから、ステーキハウスで焼いてもらうんだそうだ。
私はというと、これまた三ツ星天然記念物であるオンチドードーの遺した缶とハンガーを持って帰ってきていた。森にゴミを捨てたらいけませんよね。
「アトラクション一つしかなかったぞ。おれ寝てて終わった」
「アトラクション? 何のことじゃ? ウシナウ草はあったかの?」
そう聞かれて、私たちはポケットいっぱいのウシナウ草を見せた。
「ヘヘッ、大漁だぜ」
「えへへ」
私たちの顔つきを見て、ナンジャ爺は頬を輝かせた。
「楽しんでもらえたようで良かった。ではお互いにキッスをして。それがこの魔法を解く条件じゃ」
え゛っ。
変な空気になった。
……ゼイツ准将の横顔をうかがうと、彼は色々言いたい事をおでこにためて怒っていた。
「ささ、はよう」
「何がはようだ! 普通に戻しやがれ!!」
「アイダダダ!! ほほほっぺにチューじゃよ! イノセントなんだから当たり前じゃろ……ブフフ」
「てめわざとやってんだろッ!」
ほっぺにちゅーでも私、抵抗ある……。
「あーもう、さっさと戻そうぜ」
ゼイツ准将がだるそうに近づいてきたので、私は一歩よけた。
「嫌がんなよっ」
「そ、そうじゃなくて、わたし透けてて気持ち悪いから」
「まだそんなこと気にしてんのかよ」
と、気づかないくらい素早いキスをほっぺにしてきた。
あ……彼より背が高くなった。
私は元の体にもどった。
ゼイツ少年が首をかたむけてキスを待っている。
私は自分の髪を耳にかけて、男の子の紅潮した頬に口づけした。
彼の体が元にもどった。
迷彩パンツを履いた腰の位置が高くなり、私は一歩後ろへ下がった。目の前に裸の太い腕があった。
低くしびれるような声を聞いた。
「聞くが今後、俺の部下が一人で草をとりに来た場合、魔法はどうなるんだ」
「そういう場合はワシの頬にキッス☆ で戻れるよ」
「了解した。助かったよ爺さん。世話になったな」
「お、おおぉ……大人になりおって……」(感涙)
ナンジャ爺にさよならして森を去る。
大人になってしまった私たち。
隣にいるゼイツ准将と、子供の頃からずっと一緒にいた気分になった。
「ズビッ。元気でなぁ~! 結婚式に呼んでくれてもいいんじゃぞー!」
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