29話

1/1
前へ
/34ページ
次へ

29話

  「…………」 私もツリービアードもあいた口が(ふさ)がらなかった。 思えばオンチドードーが現れてすぐ、准将(じゅんしょう)靴紐(くつひも)を結ぶふりをして何かを拾っていた。 あれ、どんぐりだったんだね。耳にどんぐりをいれていたから私の悲鳴が聞こえず、爆睡していたってわけ……? 「……歌声を警戒して先手を打っておいたのか。賢いようじゃが、それがウラメにでるとは……」 「ナンジャ爺ここで何やってんだ? おれたちの後つけてきたのかよ?」 「!? 尾けられるかァ!! ワシャここに生えとるボダイジュのボダイ爺じゃ! 動けるもんならとっくに動いとるっちゅうねん! ひとの気も知らんでまったく……ブツブツ」 「フェルリナの怪我どーすりゃいいんだよ?」 「そこに生えてるイタミマヒマヒ草を貼って、布で(しば)れ!」 ハート型の葉っぱをむしったゼイツ准将が、シャツを脱ぐ。 私の左手首をとって、まじめな目をして葉を当てて、「ちょっと押さえてて」と言う。シャツで縛ってくれた。 「あ、ありがとう……」 「んでトリ頭はどうなったんだよ?」 私とボダイ爺の目が合った。 「あ、勝ったよ」 私は精一杯はにかんで言った。 今は話せそうにない。怪我の手当てしてくれた優しさだけで、胸がいっぱいになっちゃった。 「動物クイズ出されて、楽勝だった」 「ふうん。良かったな、空き缶もらえて」 ニッと准将がわらう。 うん、この笑顔を守れて、本当に良かった。      ♡ ♡ ♡ 戻ってきた私たちをナンジャ爺が待っていた。 「そのドラゴンは一体……なんじゃ?」 ゼイツ准将はウィングイーターを引きずっていた。 せっかくの三ツ星天然記念物だから、ステーキハウスで焼いてもらうんだそうだ。 私はというと、これまた三ツ星天然記念物であるオンチドードーの(のこ)した缶とハンガーを持って帰ってきていた。森にゴミを捨てたらいけませんよね。 「アトラクション一つしかなかったぞ。おれ寝てて終わった」 「アトラクション? 何のことじゃ? ウシナウ草はあったかの?」 そう聞かれて、私たちはポケットいっぱいのウシナウ草を見せた。 「ヘヘッ、大漁だぜ」 「えへへ」 私たちの顔つきを見て、ナンジャ爺は頬を輝かせた。 「楽しんでもらえたようで良かった。ではお互いにキッスをして。それがこの魔法を解く条件じゃ」 え゛っ。 変な空気になった。 ……ゼイツ准将の横顔をうかがうと、彼は色々言いたい事をおでこにためて怒っていた。 「ささ、はよう」 「何がはようだ! 普通に戻しやがれ!!」 「アイダダダ!! ほほほっぺにチューじゃよ! イノセントなんだから当たり前じゃろ……ブフフ」 「てめわざとやってんだろッ!」 ほっぺにちゅーでも私、抵抗ある……。 「あーもう、さっさと戻そうぜ」 ゼイツ准将がだるそうに近づいてきたので、私は一歩よけた。 「嫌がんなよっ」 「そ、そうじゃなくて、わたし透けてて気持ち悪いから」 「まだそんなこと気にしてんのかよ」 と、気づかないくらい素早いキスをほっぺにしてきた。 あ……彼より背が高くなった。 私は元の体にもどった。 ゼイツ少年が首をかたむけてキスを待っている。 私は自分の髪を耳にかけて、男の子の紅潮した頬に口づけした。 彼の体が元にもどった。 迷彩パンツを履いた腰の位置が高くなり、私は一歩後ろへ下がった。目の前に裸の太い腕があった。 低くしびれるような声を聞いた。 「聞くが今後、俺の部下が一人で草をとりに来た場合、魔法はどうなるんだ」 「そういう場合はワシの頬にキッス☆ で戻れるよ」 「了解した。助かったよ爺さん。世話になったな」 「お、おおぉ……大人になりおって……」(感涙) ナンジャ爺にさよならして森を去る。 大人になってしまった私たち。 隣にいるゼイツ准将と、子供の頃からずっと一緒にいた気分になった。 「ズビッ。元気でなぁ~! 結婚式に呼んでくれてもいいんじゃぞー!」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加