6話

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6話

   「つ、妻は、黒魔女なのです」 仮面で表情のわからないエリアス様。だけどその様子は、怯えているようにもみえる。 「妻の名はキェーマ、旧姓をウィッチランドといいます。四年前、子供ができたと言われて婚姻関係を結びましたが、実は大嘘でした」 ほえぇ。一国の王様にそんなことがあっていいのだろうかと思って、私はききかえした。 「……もしかして、魔術でだまされてしまったとかですか?」 フェアリーアイランドにもそういういたずらな魔法薬があるから。お姉様が使っ……こほん、なんでもないです。 「いえ、口頭でいわれて信じてしまいました」 ずこー。 「しかも当時、彼女には恋人がいたのに……」 「可哀想ですね、その恋人の方」 「…………」  エリアス様が黙る。ゼイツ准将が咳払いした。 ……? 「……まあ、つまり、僕は愛されていないのです。妻はパレスで愛人たちに囲まれて暮らしています」 なんだか可哀想だなぁ、エリアス様。 ゼイツ准将が背もたれに寄りかかる。彼のお皿は全て空になっていた。食べるのはや。 イークアル公国の王であるエリアス様と、チュウリッツー連邦の准将であるゼイツ様。顔を殴ったくらいではびくともしない間柄みたい。私は二人をちらりと見た。それに答えるようにエリアス様が教えてくれる。 「彼とは中等部から付き合いがありましてね。僕の黒歴史もよく知ってると思います。大きな借りもありますし、頭があがらないですね。……まあ、殴っておいてなんですけど」 「ふふふっ」 私は口に手をそえて笑った。 「なんて美しい笑い声だ」 エリアス様が耳に手をやる。 「ところでフェルリナ姫、うしろをふりむいてみてはくださいませんか? 僕からささやかな贈り物がございます」 入口ドアがあいて、私はふりむいた。えっ、いつからいたの? という人たちが大型トランクや布生地を抱えてどやどやと入ってきて、階段へ向かう。 「ドレス、シューズ、ジュエリー、その他新調しました家具もございます」 「あ……ありがとうございます」 「王様ぁ、五階に入りきらない分はどうしやしょう」と従者がきく。 「四階の倉庫に置いてくれ」 四階が倉庫よばわりされている。私はゼイツ准将の顔色をうかがった。彼は脚を組んで端末をいじっているだけで、全然気にしていなかったけど、私に気づいて顔をあげた。 「あ? なんだ?」 「い、いえ」 顔をあげたついでにゼイツ准将は言った。 「后は会わないと思うけどな」 「?」 「僕もそう思います」 とエリアス様はテーブルの上で手を組んだ。 「挨拶をさせようとしても、いうことをきかないでしょう。全て僕の不徳の致すところですが、どうぞフェルリナ姫は五階でお休みになっていてください」      * * * 部屋で一人、鏡の前でドレスを着てみていると、 「フェルリナ、何の音だ?」 とゼイツ准将が言った。私はびっくりしてふりかえった。ノ、ノックしたっけ? 「はいっ? なんですか?」 「いや……コツコツ音がするから」 彼は私の履いているクリスタルのヒール靴に視線を落とし、着ているチュールのミニドレスを見て、 「目立ってしょうがないな」 と片眉を寄せる。 「もっと町村向きのないのか」 「町に行くんですか?」 「町も行きたいなら行ってもいいが、俺、あの草見たことある気がするんだよ」 「えっ」 私は目を丸くして、ゼイツ准将に向き直った。 「案外その辺に生えてるんじゃないか? 探しに行ってみるか?」 私は一気にうなずいた。 「行きたいです!」 「なら、まず羽を隠さねえと……、ん」 ゼイツ准将が気づいた。私の背中に羽がないことに。 「フェルリナ、羽がなくないか?」 「羽しまえるんです」 「そうなのか!?」 おしゃれに余念のないお姉様方は、人間のドレスも大好きだ。よって羽をしまい試着するんだけど、しまっていられる時間は個体差がある。一番長いのは三女のインライお姉様で、世界中に二百人彼氏がいてあちこち旅行しているから、ほとんどしまいっぱなしみたい。 「どうやってしまってるんだ?」 「……ある部分に力を入れて締めつけるんです」 「ある部分ってどこだ?」 「私にもわかりません。奥の方です」 私は無意識に下半身を指さしていた。 「そういや昨日も羽縮んだ気がするぞ」 「昨日?」 「……。いや、なんでもね」 ゼイツ准将があごを掻いて天井に目をやる。 「それやれば町歩けるんだな」 「ざんねんながら私は十分くらいしかできないんです。お姉様はもっとできるんですけど」 言っているそばから、背中に羽が戻ってきて私は自分の体を抱いた。 「ドレス脱ぎたいので、あの……」 「ああ悪い。んで、ドレス着る時、羽はどうするんだ?」 「エリアス様がテイラーを呼んでくださるそうです」 「そうか。じゃあ外で待ってる」 ゼイツ准将が部屋を出ていき、私はドレスを脱いだ。自前のワンピースを被って、羽を出す。ゼイツ様、意外と羽のことに興味があるんだな。驚いてた顔がおもしろかった。ふふ。 五階から飛びおりられるって知ったら、もっと驚くかな? 羽を隠すためのローブを探しだして、それを持って私は腰窓に足をかけた。窓枠を掴んで外へジャンプ! 羽を広げて、ふんわりと落ちていき、芝生へ着地した。えへへ、空は飛べないけど、パラシュートにはなるんです。 「うおっ。なんでいるんだ」 塔から出てきたゼイツ准将に、私はクスクスと笑った。    
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