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昔々のおはなしです。
ここに一匹の子狸がございます。
まだ術もまともに知らない。
練習中。
術の練習はそれなりに危険も伴いますから、
大人の狸から
「一人の時はやっちゃいけませんよ」
なんて止められてる。
それでも早く上手くなりたいもんだから、練習したくって仕方がない。
ある日、森の中でもって隠れてこっそり練習をはじめた。
狸の金玉袋ってのはもの凄く伸びて拡がるらしいね。
『八畳敷』なんて言われてる。
それを拡げて空を飛んだりするんだもの。
子狸はそれがやりたいもんだから、練習するんだ。何度も何度も。
だけど中々上手くいかない。
夕方になって日が暮れかけた頃、やけになって、
「伸びろ! 伸びろよ! このクソ金玉袋!! 」
なんて言って、力一杯、金玉袋を叩いちまった。
痛かったでしょうねえ。
まだ子供ですから、いくら自分のだって言っても加減を知らない。
そしたらね、どういう訳か金玉袋が少ぉしずつ伸びはじめて、拡がってったそうですよ。
─ やった! しめた!
子狸が思うのも無理はない。
初めて術に成功したんだ。
嬉しいに違いない。
でもね、拡がったはいいんですが、今度は止め方を知らない。教わってない。
─ 止まれ!
そう何度も言ってみたり、もう一回叩いてみたりしたんですが、一向に止まる気配がない。
そうこうしてる間にも金玉袋はどんどんどんどん伸びて伸びて拡がってく。
─ 止まれ!!
─ 止まれって!!
─ 止まってくれぇぇぇ!!
最後はべそかきながら
「お願いじまずぅ、止まっでぐだざぃぃ」
なんて言ってみても、止まるわけないんだ。
隠れてやってた訳ですから誰も来ない。来てくれない。
それでね、金玉袋は今でもずーーーっと、伸びて伸びて、この世の果てまで無限に拡がり続けてるらしいんだ。
これが、世に言う宇宙のはじまりだそうです。
【はじまり ─ 完 ─ 】
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