うたをわすれることり

5/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「さーて、それじゃあ明るい曲から!」  親友の彼女からの提案で少し新しめの曲を弾く。  私好みのAdoから始まり、親友の好きなあいみょんから、旦那さんのBUMPOFCHIKENにな、片思いの彼がbacknumberをリクエストする。  こんな曲はこのバンドで合わせたことはなかったけど、それなりに繋がってなにより楽しい。 「んじゃー! 私たちの一番好きな曲だ!」  彼女が元気良く叫ぶけど、私にはそれは理解できない。だけど、曲が始まると直ぐにわかった。だって私の曲だから。  メジャーデビュー曲。この頃はまだ必死で売れるかなんて考えないで楽しい歌を作っていた。それまでみんなに思いださせられる。  私は歌う。声が潰れないかなんて考えないでガンガンと歌った。 「落ち込まないであたしらに相談しなさいな。味方なんだから」  存分に歌い演奏に疲れて、休憩にすると彼女から心配を明らかにした言葉が有る。 「そうだよ。仲間を信じられないのか」 「俺たちで解決できることなら協力するからな。お前は夢なんだからいつまでも見守るよ」  そして彼女の旦那さんと片思いが続いている雰囲気のある彼が優しく語るから私は涙を流していたが、それは汗でかくして平然を装う。 「まあ、少し悩んでただけ。もう解決したから」  憧れの彼には弱音として悩みを話していたが、残る二人は「ならよかった」とユニゾンしている。  そうかと思えば親友の旦那さんは私の意中の彼にゴニョゴニョと話をしているが、親友同士の語らいだろうと気にしなかった。囁きは「告白しないのか?」と言われ彼が「あんな未来を見てる奴に言えないだろ。待つよ。いつまでも」と両想いになっているのは私も気付かない。  だけどその彼が私を見ている。 「下手くそな音楽でもお前の役に立てるんなら良かったのかもな」  微笑んでいる彼と彼女たち二人も私を見ていた。 「うん。ヘタッピだけどね」  この場は笑いにしておこう。これが私たちなんだから。  そして私はまたあの都会の街に戻ってもがくのだろう。たとえ売れなくっても。自分の歌を信じて、楽しさを聞く人に届けるために。それまではもう少し頑張って、結婚はそれから彼が残っていたらでも構わない。  無くしていた希望を見た気分になる。私が無くしていたのは楽しむということ。売れる為の歌なんてつまらなくて、楽しいものを作るには自分も楽しくないとしょうがない。 「煩いから」  軽く私の下手という言葉を聞いて文句があがったのだがそれはあくまで親しいからでそれからも再会した音楽が続いてた。 おわり
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!