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彼女はクラスでの自分の立ち位置を知っていた。
周りに気付かれることも無く、名前を言っても「誰?」としか思われないような子だ。
事実私もそうだったが、どうにも春原さんもまた同じ認識だった。
「だから分かってたんです、私じゃキラキラした他の子みたいにはなれない。目立たないまま何も無いまま、ここを卒業するんだろうなって思っていたんです」
そんな思いを抱えていたがある日を境に転機があったらしい。
春原さんは過去に体育の授業中に怪我をした事があった。
その時に秋葉君が保健室まで背負ってくれたこと。
一安心するまで傍にいてくれたこと。
その優しさに、暖かさに、どうしようもなく焦がれてしまったのだと。
「誰にも気がつかれないまま終わるはずだった私を秋葉君は見つけてくれた、そのことが嬉しくて、私は、彼が好きになったんです」
自分の立ち位置を理解してなお、春原さんは秋葉君をどうしても諦められなかった。
これが自分の我儘なのだとも理解はしていた。
でも、それでももう一度秋葉君に振り向いてほしかったのだと。
「私なんかじゃ秋葉君に釣り合わないのは分かってるんです。彼ならもっとキラキラした子とよりよい人生を歩める、それは分かっているんです。でもそれで収まってくれないんです」
せめて彼ともう一度話がしたいけど勇気が出ない、
だから私に目を付けたというのが事の顛末だ。
何処までも臆病で、ありふれた春原さんの願い。
それを断れるような理由をついぞ私は見つけられなくてこうしている。
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