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9月、未だに強い夏の日差しは身体をじりじりと焼いてくるよう。
だというのに教室のみんなは放課後になれば我先にと校門や別の方を目指して進んでいく。
目的は部活か、それともバイトか、まぁ私には関係のない話ではあった。
今日は写真部も休みだし、早めにスーパーに行っておばさんの分の料理を作らないと。
そんな風に考えていたら、ふと声をかけられた。
「あ、あの!東雲さんですよね?」
振り返ればそこには眼鏡といわゆる姫カットの少女。
クラスは一緒なんだけどあいにく名前が思い出せない、誰だっけこの人。
「えっと,はい東雲ですけど貴女は?」
「あ、すいません。私影が薄い方で、覚えて貰えてないですよね……」
うっ、そういう言われると弱い。
加えて夏の間に色々あって人の名前も覚えようとしなかった私も悪いんだ。
こればっかりは仕方ない、恥をさらして乞うとしよう。
「はい、ごめんなさい」
「私、春原と言います。春の原っぱで春原です」
春原と名乗るその人は軽くスカートをはたきながら顔をこちらに合わせる。
眼鏡の奥に見えるのは怯えながらも微かな意思を秘めた瞳。
不味いな、こういうのを相手にすると私は弱い。
「それで春原さん、何かご用ですか?」
「はい、東雲さんはいつも男性の方と一緒にいますよね」
男性の人、あぁ蓮と伊吹の事か。
まぁ確かにそう言われればそうではあるんだけど、なんか如何わしいみたいないい方が気になるな。
「えぇ、彼らとは友達ですので。それが何かしましたか?」
「その事ではないんですが、そういう経験がある東雲さんにお願いしたいことがありまして」
「勧誘だったら断ってますので」
「違うんです、東雲さんて男性慣れしてますか?」
男性慣れ、どうだろうあの二人といて特にそういうのを感じたことはない。
だけどまぁ傍から見ればそうなるわけか、でもそれが何なんだ?
「あの、謹んでお願いがあるのですがーーー」
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