君へ

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君へ

私の唯一である君へ。 きっと、君がこれを読む頃には私はもういないと思う。 あぁ、きっと君の事だから未だに自分の所為だ、と 自責の念に駆られているかもしれないね。 大丈夫だよ。君のせいじゃないし、別に誰のせいでもない。私の我儘だ。 でも、私の行動で君が自分自身を責めて、激しく後悔の念に駆られる姿は きっと、とても甘美で美しいだろうから、それを見られずに死ぬのは 少し惜しいことをしたかな。 え?惜しいと思うなら戻って来いって? 嫌だなぁ、私は君が幸せにいるならそれで充分だ。 思い人と結ばれて、悪役は消えて、美しい大団円だったじゃないか。 私は自分の役を演じきって、生涯の目標も達成した。 これ以上満ち足りた終わり()なんてこの世に存在しないと思うんだ。 私は誰に何を言われようとも、誰の肯定も否定も必要のないくらいに 生きている時も死ぬ間際も世界、宇宙で最も幸せだったし、 誰よりも君を幸せにしたいと思っていたと自負しているし、 死ぬ理由だって、君のために死ねるなんて、これ以上の名誉はないと思う程の 至上の、至高の幸福だったと知っているんだ。 信仰なんて生優しい言葉じゃ言い表せない程の激情を抱えて生きていたんだ。 これは君にも、誰にも可笑しい(勘違いだ)とは言わせないよ。 思いや感情っていうのはどうして言葉や文字にしてしまうと、 途端に陳腐な物になってしまうのか。残念でならないな。 おや、私が居ないなら君も死ぬと言うのかい? 、、、私の、文字通り必死の努力()を無碍にすると言うことだけど どうしてそんなことを言うんだい?君があれで幸せになれると言ったから 私はここまでやってきたし、瑕疵も、障害も、後腐れも、問題も一切無い いわゆる完璧なハッピーエンド(君の幸せ)を実現させた訳だけど。 仕方がない、君だから許そう。本当は、、、いやいい。この話はやめよう。 私は比喩なく、骨を折って、君を幸せにできたと思っていたのだけれど。 君がもしも私が居ないなんていうくだらない理由で死んでしまったら 私はそれこそ今の君の様に自責の念に駆られて、自分の存在を許せなくて 輪廻さえも断ち切るよ。二度と、それこそ来世でも、それより先でも 私と言う存在が君の幸せ()の障害であることが私の死によって起こった 君の死によって証明されたなら。私が生きている限り、君の幸せが訪れないと 証明されたのと同じだからね。君の幸せのために私は喜んで魂さえも捧げて 天の決め事さえも破り、神さえも殺して見せようじゃないか。 長くなってしまったけど、つまり何が言いたかったかと言うと 。その事実が とても、とても苦しいんだ。それこそ、二度と君に顔向けできない(君に会う価値が無くなった)くらいにね 君は時折、とても天然というか何というか抜けた発言をする人間だったけれど 馬鹿な訳じゃなくて、むしろ察しが良すぎるくらいに空気の読める人間だった だからこそ、君へ私が書いたこの手紙を読んで、私の言いたいことが わかっただろう? 私が君のために完成させた幸せを何も考えずに享受してほしいんだ 別に脅しているわけではないよ。君は優しいから、私の後を追ったら 私が君に捧げた幸せ()を無駄にしてしまうと思っているから、 その考えのままでいて欲しいだけで。 純粋に君が生きている(幸せ)なら、それでいいんだ。それで私は充分 満たされる。私の人生には価値があったのだと思えるんだ。 君のとる行動一つで。 さて、そろそろお別れの(処刑台に登る)時間だ。 何度でもいうけれど、私は君の幸せをいつでも望んでいるんだ。 でも、私の存在が君の枷になる事は望んでいない。だけど、 きっとこのまま居なくなったら(死んでしまったら)君の記憶に残ってしまうと 思ったんだ。君は繊細で優しいからね。そんなところも美しい。 (正義)のために()が滅びる。 これ以上無い程に美しい(正しい)エンディング。 だからね、より一層完璧なエンディング(君の幸せ)のために 忘却薬を用意したんだ。これを飲めば、君は私は忘れられるし、 君の周りの人も君に対して私の話題を振らない。君の周りから 私の存在を薄れさせて、私のことを思い出さずに(忘れたまま)生きていける。 君がこれを使うかどうかは君に任せるけれど、私個人としては 使って欲しくて用意したんだ。決して君に使う様に強要している訳ではなくて ただの我儘、 私の最後のわがまま。 選択権は君にある。私はもう居ないからね。 君ならきっとすぐにこの手紙を見つけるだろうから。 何度も言うけれど、私の願いはひとつだけ 幸せに生きて。 それだけ。 P.S. 未練を残しそうだから、やっぱり書かないでおくよ。幸せに生きて。                              さよなら。                              私の唯一(幸せ)
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