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「妻……ですか?」  川の底にでも引きずり込まれるのではないかと想像していた父も、「妻」の言葉に驚く。   「あぁ、清らかな心を持つ水緒でないと、私の妻は務まらぬ。幼い時から待ったのだ、ずっとこの時を」  水緒の頬に手を添え、透き通るような青い目を細める竜神に、水緒は真っ赤な顔になった。 「幼い頃……?」 「毎日会いに来てくれたであろう?」  祠の掃除をする祖母の横にいた着物の男性。  ……今ならわかる。  あの時、横に立っていたのは銀色の長い髪の竜神様だ。  どうして忘れていたのだろう? 「ずっと一緒にいると、永遠に一緒だと幼い頃に約束したが覚えていないか?」  祠が綺麗なら川も綺麗に。  川が綺麗なら竜神の力も増え、水緒の前に姿を現すことができた。  だが、いつの頃か水緒は来なくなり、祠も汚れてしまったと竜神は悲しそうに目を伏せた。 「だが、水緒のおかげで再び会えた」  もう離さないと竜神は水緒に微笑む。 「婚礼衣装はいつ出来上がる? 最高の着物を準備すると言っていただろう?」 「最短でも、あと一年半はかかると」 「では二年ほどお前の屋敷に住もう。祠も無くなってしまった。桜が咲く季節に、嫁に行かせたかったのであろう?」  異論はないなと言われた父は信じられないと目を見開いた。 「竜神様を我が家にお迎えできるなんて。二年と言わず、この先もずっと……!」 「お父様、それはさすがに……」  古い我が家ではあまりにも失礼ではと止めようとした水緒の手を竜神はギュッと掴んだ。 「その方が寂しくないか?」 「え?」 「水緒が望むのなら、それでかまわないぞ」  ただし一部改装すると竜神に言われた父は「お好きなだけ改装してください」と快諾。 「祝言は二年後だが、水緒は願いを叶えた瞬間から俺のモノだ」 「えぇっ?」 「片時も離れるな」 「水緒をよろしくお願いします」 「ちょ、ちょっとお父様」  未婚の娘なのに、同じ部屋で過ごすことまで同意してしまった父に水緒は呆気にとられた。    ……妻だと言っていた。  私が竜神様の妻!  今更ながらその重大さに心臓がバクバクする。 「水緒、愛している」  もう離さないと言われた水緒は真っ赤な顔になりながら甘い口づけを受け取った――。
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