一章:そこにいるのは誰

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 田後(たご)佳人(よしと)。俺が大学に入って最初にできた友達。最初の授業でサークルやソーシャルゲームの話で盛り上がって、それ以降よく話すようになった。  基本的に大学ではこの四人とあともう一人とでつるんでいて、よく誰かの家に押し入っては晩飯を食べたり、アニメを見たりゲームをしたりしている。夏には五人で琵琶湖までキャンプをしに行ったりもした。 「今日田後ちゃんも月食見に行く?」 「月食かあ……。それってこのへんでも見れんの?」 「問題ないみたい。でも少し暗いとこ行った方がよく見えそう」  小塔がまたスマホで確認しながら田後の問いに答える。 「おお。じゃあ俺も行こっかなあ」 「まあ猪上は来ないけどね」 「だからしゃあないって言ってるやん!」 「うるせえよ」 「お、田後ちゃんらも見に行くん? なら俺らと一緒に行かん?」  後ろからまた別の声が聞こえた。  外打(そとうち)秀介(しゅうすけ)村内(むらうち)廉太郎(れんたろう)が並んで立っていた。この二人も大学の同じ学部の友達であり、田後と猪上がそれぞれと仲がいい。 「よく見えそうなところ知ってるから、そこで()ん? ほかにも何人か誘ってさ」 「おー、近くなん?」 「新沢(にいざわ)ん家の近くの山の頂上。何回か行ってるし道も問題ないで。この前も行ったし。川のっちも来るやんな」  外打は鞄の中を漁っていた俺に話を振ってくる。  ちゃんと話を聞いていないと思われたのだろうか。 「あー、夜に山に行くん? それ大丈夫なん?」  なんともさっきどこかで聞いたような話だ。今朝、ゆう兄から忠告を受けたばかりで、それを無視するのはやはり罰が悪い気もする。  普段ならば絶対にゆう兄の忠告は守る。あのひとの言葉は俺にとって特別なものだからだ。こんな誘い、いつもなら空気が悪くなっても絶対に断っている。  だけど今回はなぜか、肯定せずとも否定もしなかった。 「夜中言うても六時とか七時やろ。そんな深夜に行くわけでもないし、大丈夫やって。それに山って言っても小さい丘みたいなもんやし、すぐやで。この前行った時もなんもなかったやんなあ?」 「うん、問題なかったで」  外打が後ろに話しかける。どこか頭に直接響くような声が聞こえ、それと同時に一瞬眠気が襲った。
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