一章:そこにいるのは誰

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 席に座っている状態だと二人の影に隠れて声の主が見えない。首を向けるのが面倒で眼だけでじろりとその後ろに向ける。  視線の届かない相手に対してあまり気にせず、引き続き鞄からノートと教科書を取り出し、授業を受ける用意をする。  すると授業開始のチャイムが鳴った。この大学独特のチャイムがキャンパス中に響き渡る。がららと教室の扉が開き、二限目担当の教員が入ってくる。 「そんじゃあ決まりってことで! 集合場所とか時間はまたラインするわ」  入ってくる教員の姿を見て、外打と村内は慌てて席に戻る。  その二人の様子を見て、喋っていた俺たちも前を向いて授業を受ける体勢になる。すぐにざわついていた教室が静かになる。  授業が始まり、先生が配布のレジュメを参考にしながら授業が進んでいく。  隣の席で、授業に飽きたのか田後がスマホをいじっている。筆箱を前にしてスマホを隠し、先生にバレないように画面を見る。  田後は基本不真面目だ。しかし、授業中にこういうことをやっていても、田後の成績は別段悪くはない。むしろ良いぐらいまである。春学期も単位を落とすことなく、しっかり良評価をもらっていた。  もともと高校時代に習っていたと田後本人は言っており、さらに田後自身は要領のいい人物である。だからこそ授業中にこういうことをしていても、余裕があるのだ。まあ良いことではないと思うが。  その様子を見ていて、俺もズボンのポケットからスマホを取り出す。田後と同じように筆箱で隠しながら、机の上にスマホを置く。 スマホの検索欄には「月」の一文字。  月。  高校時代、天体にはまっていた頃、ゆう兄にいくつか星や宇宙について質問したことがあった。  この広大な宇宙の中でちっぽけな存在である太陽系の星々でも、我々人間から見れば、途轍もなく巨大な存在なわけである。だから宇宙にとって意味はなくとも、人間側には大きな意味がある。  古くから信仰されてきた天体には、人間があてはめ続けた意味が今も形として残っているもの、もうすでに消されたものなど合わせて無数にある。  特に月と太陽はその信仰と意味が多い。毎日空を見上げればそこにある存在であり、人々に希望を与え続ける存在であったには違いない。世界中の神話に太陽と月の神様が登場するのもそういう理由だろう。
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