プロローグ

2/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
 ある日、いつかの記憶。 「なあ、幽霊っているん?」  高校の頃、友達から何気なく聞かれた。  それはきっと、俺が寺の息子と知って聞いてきたんだろう。 「うーん、どうやろね。いるんやない?」  俺は曖昧に答えた。  いるかもしれないし、いないかもしれない。  というのも、俺自身は寺に住んでいる。さらに部屋のすぐ裏が墓である。  にもかかわらず、そういうことを一度も体験したことがない。  俺はそういうものを見たことはないし、それらの音を聞いたこともない。なにひとつ体験をしたことがないのだ。  人によれば幸せなことなのかもしれないけど、その類が好きな人からすれば残念な話なのかもしれない。 「なんやその微妙な反応」  質問してきた友達は不服そうに言葉を漏らす。  まあそうだろう。俺自身も微妙なことを言ったなとは思う。 (きっと、「いる」ってことを俺の口から聞きたかったんやろうなあ)  なんて言葉を返そうかと考えていたら、隣から別の友達が話に入ってきた。 「僕はおると思うね。少なくともおった方が面白そうやん。幽霊も神様も、オカルトやUFO。皆いるって考えた方が、絶対面白いと思うで」 「……」  おお、なんて素敵な考え方だろうか。  もうこの時代、そういうオカルトめいたものの大体は科学的に存在が否定されている。科学が時代の主流となり、現代人はそういうものを深く信じていない。だからそういうものを面白半分に探し、楽しんでいく。 「そういうことが聞きたいんやないって。本当におるんかが知りたいんよ」  最初に話しかけてきた友達が、また不服そうに答える。 (これも正しい反応やろうなあ)  その話題で俺が答えられることはこれ以上ない。  なぜなら俺は最初にいると答えたからである。  幽霊は見たことないし、神様もUFOも見たことはないけど、きっといる。  だって俺は、それら以上におかしなものを身近に知っているからだ。 「俺みたいなのがいるんだし、魔法だってあるんだ。この世界はお前が見えているものだけじゃねえんだから、幽霊だって妖怪だっているだろうよ。見えてるものだけを信じてたら、そういうもんに足元(すく)われるぞ、祈」  これは昔俺が聞いた、身近な人が教えてくれた、ずっと信じ続けている大切な言葉である。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!