一章:そこにいるのは誰

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一章:そこにいるのは誰

 一〇月八日。  目が覚めた。  なにか夢を見ていた気がするけれど、なにも思い出せない。  徐々に意識が覚醒し、手先の感覚がはっきりしてくる。  体を起こし、伸びをして、さらに体の目を覚まさせる。  枕元に置いていたスマートフォンを手に取り、時間を確認する。 「……まだ寝られるなあ」  スマホが示す時間は起床しようと思っていた時間まで、まだしばらく余裕がある。 (でもせっかく起きたし、ちょい早めに準備して行くか)  顔を洗い、寝間着から着替える。黒のTシャツにジーパンを履く。朝食を軽く簡単に済ませる。荷物を確認して、色の薄まった青いシャツを羽織る。講義の資料が乱雑に詰め込まれた大きめのショルダーバッグを肩にかけ、最後に右手の人差し指に、少し大きくて真っ黒な指輪を嵌めれば準備完了。  いつもよりも少し早めに、家を出る。  ようやく暑さが抜け、少し涼しくなってきた。早朝なら尚更のことだろう。肌寒さを感じるほどに季節が落ち着いてきた。  京都の夏は気温の高さというよりも、それ以上に湿度の高さがこの蒸し暑さの原因になっている。  きっと日本の気候的に全国どこでもそうなのかもしれないけど、個人的に京都はより酷い気がする。風は吹いても熱風だし、涼しさの欠片も感じることはできない。  そんな夏も彼岸が過ぎて、ようやく肌がひりつかなくなった。  裏の玄関から出て、庭の空気を感じる。 「一気に秋っぽくなったなあ」  空気を吸って、吐いて。少しだけ冷たくなった空気を身体で感じる。すっかり秋だ。  いつも通りの癖で、右手をジーパンのポケットに突っ込み、歩き出す。  秋の空気に少し高揚感を感じ、弾んだ足取りで庭の石畳の道を歩く。
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