一章:そこにいるのは誰

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「ん……まあそうやけどさ」  あっはっはとゆう兄は笑う。この人は俺のことを大概理解している。そしてこうやって揶揄ってくる。悪い人じゃないけど、時折性格が悪い人ではある。  それでも俺にとっては大切な友達であり、兄貴分である。 「で、そんなこと言いに来たん?」 「ん? いや、それはついで。というかこっちに来たから顔出しとこうと思って。相も変わらず仕事だよ。月食に合わせてのことかもしれんけど、とにかくいつもの面倒事よ」 「いつも大変やなあ」  適当に相槌を打つ。  いつも通り深くは聞かない。聞いたところでわからないことの方が多そうだし。 「にしてもバス来ねえなあ」 「市バスは特に時間通りきいひんからなあ」  乗客数の多い市バスは本当に時間通り来ない。それは観光地に向かうバスが特に顕著だ。京都の主要な観光地、平安神宮や銀閣寺・金閣寺、それから京都の玄関口であろう京都駅や繁華街の四条河原町などを行き来する系統のバスの車内は大概観光客でごった返している。  それにこの秋のシーズンだ。紅葉を売りにしている観光地やら観光寺院はこの時期は書入れ時だ。年がら年中観光客の多い京都でも、この時期はそれ以上に人の賑わいで溢れる。その結果当然また、観光地へ赴くバスの車内は乗客でごった返すのである。  そしてその人らの乗り降りで時間が食い、バスの到着時刻がずれていくわけである。  観光で売れていくのが悪いわけじゃないんだろうとは思う。しかし結構な頻度でバスが遅れてくるから、普段からバスに乗って移動する人間はそれを先に見越して行動しなければいけない。一言でいえば面倒くさい。時間通りに来る場合もあれば、三十分も遅れてきたりする。 (バスの運転手さんが悪いとは思わんけど、もうちょいなんとかならんのかなあ。時間通りに学校に着いてくれりゃそれでええんやけども) 「月食、見に行くのか?」 「んー、どうやろ。友達と相談かなあ。天気的に見えそうやし、どっか見に行くかも」  今日の天気は、一日中晴れで今日からしばらくはずっと秋晴れが続く予報だったはずだ。おそらく今日はどこでも月は見えるだろう。  友達も誘ったら数人ぐらいは着いてきてくれるだろう。 「大学って結構山のほうだったよな?」 「ん、ああ山のほうっちゃ山のほうかな。でもそんないう程やないよ」
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