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「あー、山のほうに行くなら気を付けた方がいいぞ。お前はあんまり気にせんかもしれんが」
「……いや、わかった。どこからが山かあんまりわからんけど、とりあえず気を付けるわ」
いつもの忠告。先を見透かしたような警告。
今は何のことかわからないけど、たぶん何かあったらこれだとわかることだろう。いつも別れ際にはなにかしらのアドバイスをくれる。
(結局アドバイス通りに動くから、何か起きたことはないけども)
「あー、あと、前に渡したの持ってるか?」
「この指輪のこと? ゆう兄が肌身離さず持っとけって言うからちゃんとしてるで」
「それなら大丈夫だな」
遠くに緑色の車体のバスが見えた。見ると自身が乗るつもりの系統の番号だ。
ゆう兄もそれに気が付いたのか、腰を上げる。
「それじゃあ俺はそろそろ行くな。今日の夜か明日には祈ん家寄るからまた連絡する」
「了解。ゆう兄も気ぃつけてね」
「おうよ」
そのままゆう兄は歩いてきた方角に走って戻っていった。
ゆう兄が見えなくなったころに、バスが停車位置に到着する。俺はベンチから腰を上げ、バスに乗る。
今日のバスは時間もいつもより早いせいか、あまり混雑もしていない。俺は前の方にある一人用の座席に座り、外を眺めて目的地に到着するのを待った。
†
月食。
月は太陽の光を反射して輝く天体である。我ら地球に住む存在からすればわかりにくいことであるが、地球も月と同様に太陽の光を反射して輝く天体である。
地球も月も太陽の光による影があり、太陽とは逆側の方向に影が伸びる。
この地球の影の中を月が通過することで、月が欠けたように見える。
それが月食という現象である。
古来より月は太陽や他の星々と共に吉凶を示すものとされ、太陽と対を成して共に様々な信仰を生んできた。
月の中でも満月は特別な力を持つとされる。
人は丸く大きく輝く月に恋焦がれ、それを見ては自身の想いを言葉に変え、形にした。
それは良いことも、悪いことも、変わらずだ。
ある研究の中では、満月の夜は犯罪の件数が増したり、巨大な災害が起こったりといった、月の満ち欠けが原因だとするものもある。
これが事実かどうかは置いておいて、月にはなにかしらの人を惹きつける力があると思わされる。
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