一章:そこにいるのは誰

6/13
前へ
/100ページ
次へ
(あの手の女の子にはそんなに興味は湧かんなあ)  そうは思っているが、視線が向いたままでなぜかほかに移せられない。ぼーっと視界に入れていると、彼女が交差点を渡り切る。 (同じ大学の人なんやろうか)  そんなことを考えて眺めていると、彼女が一瞬こちらを見たような気がした。いや、目が合ってしまった。そんな気がして、体が不意に固まる。  そのまま彼女は大学の方へと、変わらず軽い足取りで坂道を上っていった。  信号が赤から青へと変わり、その瞬間足が前へと反射的に進み始めた。 (誰だったんやろう……)  その疑問を抱えたまま、俺も坂を上り始める。  ようやく涼しくなってきたからまだマシだが、ついこの間までは大学に到着するころには汗だくになっていた。これだけ涼しくなっても額に少し汗をにじませる。そしてキャンパスの南側の入り口に到着。そこからキャンパス内では少し古めの建物を目指して歩く。  ほかの大学から比べれば、うちの大学のキャンパスは狭い方だろう。他所の大学に行ったときにどれだけ広いものかと感じた。広すぎるあまり普通に迷った。あんまり広すぎるのも移動に時間がかかりそうだ。 (これぐらいの広さで調度よかったんかもしらんな)  北西にある古い建物。階段を上って、講義の教室へと向かう。  二限開始までにまだ少し時間がある。だがもうすでに何人か教室にいる。  俺が属しているのは人数の少ない学部だ。授業で突き合わせる顔も少ないから、大概の顔と名前は一致している。今教室にいる学生も、フルネームはわからなくともほとんど認識はできている。 「よーっす。早いな、猪上も小塔ちゃんも」  二人並んで座って話している男二人に話しかける。 「おはよう、祈ちゃん」 「なんか早く目が覚めちゃったんよ」  猪上(いのうえ)(すばる)小塔(ことう)(さとる)。大学に入ってから知り合った友達。井上も小塔も大学近くのアパートに下宿している。二人は知識の幅がかなり広い。くだらない雑学で延々と話ができる変な奴らだ。簡単に言えば、無駄な知識が多い。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加