一章:そこにいるのは誰

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 そしてその話の内容が特に古い。まだ十代なはずなのに、三十代、四十代とかの話題や、さらに古ければ戦前とか遡れば江戸時代とか歴史の話で盛り上がっていたりする。なので、時々まったく何の話をしているのかわからないときがある。そういった少し変わった二人である。 「んで今日はなんの話してんの?」 「あ、今日月食でしょ? 見に行こうって話してたんだけど、猪上が部活だから無理って断るんよ」 「それはしゃあないやん。あの部活あんまり顔出したくないけど、顔出さなうるさい人がおるんよ」  猪上が面倒そうな顔をして、悲鳴のような声を上げる。 「でも月食って結構遅い時間ちゃうの?」 「調べたら皆既は七時半くらいかららしい」  小塔がスマホの画面を見せてくる。そこには今日の月食の始まる時間や終わりの時間、どの方角に見えるのかなどが細かく書かれていた。 (皆既は七時二十四分からか……) 「その時間なら部活終わってるんやないの?」 「いや先輩が飯食いに行こうって言ってたから何時になるかわからん」  大きなため息をついて、猪上がまた面倒くさそうな顔をする。 「まあそれならしゃあないな。筝曲部(そうきょくぶ)も大変やな」 「部としての活動やないんやけどね」  猪上は筝曲部、小塔は文芸部に所属しているが、普段あまり部の方には顔を出しておらず俺たちとつるんでいることの方が多い。この月食という珍しいタイミングで、猪上がこっちの誘いを断って部の方を優先するなんて、相当面倒な話なのだろう。 「俺らと部活とどっちが大切なのよ!」  小塔が大きな声で猪上に向かって叫ぶ。古典的な問答が始まる。 「しょうがないやん! 先輩の誘い断ると面倒なんやから! 俺かて月食見たいわ!」  猪上も小塔と同じぐらい大きな声で叫び返す。 「こっちがさっさと終わったらそっち合流するようにするわ」  古典的な問答をすんなりと終わらせ、落ち着いて続ける。 「まだ行くとは決まってへんけどな」 「ええー、行かないのー!?」 「うるさいわ」 「なにでかい声して話してんの?」  小塔が意味もなくごねるその後ろから誰かに話しかけられた。 「田後ちゃん、おはよう」 「おはよう、祈ちゃん」  話しかけてきた身長の高い細身の男が隣に座ってくる。
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