プロローグ

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プロローグ

 かつて戦乱の時代。  人々がそれぞれの思惑を胸に、願い、戦い、死んでいった。  それは(さき)の時代、栄華を極め国の長が座した(みやこ)でさえも、変わらない状況だった。  人々は怯え、生きる希望さえも見ることのできないような怖ろしい日々。  次第に人々の怯えは怒りに変わり、それに呼応するように京を中心に、国は炎に包まれた。誰もが苦しく、生きる心地のしない時代だった。  そんな中、一人の英雄が現れた。  苦しみ怯える人々に希望を与えた。多くの野望を抱え持つ国々をまとめ上げ、この日ノ本を統一した太陽のような男がいた。  その男の始まりは、神や仏を殺す力と、人々を魅了する強大なカリスマを持った愛すべき、そして無慈悲なる主と出会ったこと。その方と出会い、見出され、下等の出でありながらまた自身も武将となることができた。  豪壮たる主は無残にも裏切られ殺された。しかし男がその(かたき)を討ち、主の後を継いで男は日ノ本を統一した。  英雄は富、名声、栄光、どんなものでも手に入れることができた。  しかし、何もかもが手に入った英雄だったが、唯一自身の子には恵まれなかった。  悩んだ末に、後継は自身の甥に決めた。  甥は武芸だけでなく、学問、茶や歌、様々な芸事に秀でた。後の世に、凡庸と評されたとしても決して無能ではなかった。  そんな甥に、男は自身の後を任せようと考えた。そのことに多くの家臣は納得し、世間に広く公表された。  だがそのすぐ後に、英雄に子ができた。  激しく喜んだ英雄は、本当の後継こそはこの子であると宣言した。  確実に実の自身の子に継がせたかった英雄は、甥に後を継がせたくない家臣らと共に、甥を陥れることを決めた。  愚かしくも甥は、彼らの策にはまり、陥れられ、自身の腹を切ることとなった。  (いた)ましく命を散らした甥の物語は、そこで終わるはずだった。 「これで、私の想いは殿下に届いたはず。あの方の間違いを正せたはずだ」  そう思った。きっとそうなってくれる、と信じていた。  だが、私の願いは届かなかった。  この時代、人の命は先の世よりも軽く扱われる。  それほどまでに多くの人が生きて、軽々しく死んでいったからである。  だが、それでも命の重みはきっと、先の世と大差はなかったはずだ。  大切な人が死ねば悲しいし、悲しむべきだろう。そして、人々はその別れと共に成長していくものであり、そうあってほしいと願う。  だからこそ、簡単に人は殺されるべきではない。意味なく死ぬことなどあってはならない。無下に扱われて良いもののはずがない。  私はそう強く願う。  願っているからこそ、あの時の決断を、後悔はしていなくとも、今も苦悩し続けるのである。
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