父のもとへ

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他の入院患者の驚いた目を気にする事もなく、父のベッドの前のカーテンを開ける。 頭に包帯を巻かれ、ベッドの上で半身を起こして申し訳なさ気に私に向けて頷く父。 ── っっっっえ?! 無事なら無事に越したことはないが、ここまで慌てて駆けつけた割には、軽い感じの父の姿に何だか拍子抜けしてしまった。 「ごめんなあ、心配かけて。でも、お父さん大丈夫やから。車の方も保険で何とかなりそうやし」 そう、よかったよ、ほっとした。 ── ではないのだ。 私の皆勤返してくれよ。 私の心配返してくれよ。 私の焦燥返してくれよ。 私の全速力返してくれよ。 私の ─ 「お父さん、もう、あんなとこで電柱にぶつかったらあかんわー」 「せやけど車ん中でバッタが飛び回ったら、誰でもパニックなるやろ? 」 しょーもな。 おかん、しばいたろか。 どこが『じゅうたい』やねん。 「あの道、朝は、よう抜け道にすんねん。けど細い道やからなあ。みな、引き返すに引き返せんようになってもて、もう後ろよ。 クラクションでオーケストラできるか思たわ」 父と母は大笑いだ。 私は表情を変えもせず、無言でその場に立ち尽くしていた。 【父のもとへ ─ 完 ─ 】
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