これが運命なんだ

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 俺達はひたすら黙々と海岸を散歩していた。  話す事がないわけじゃない。むしろ話さなければいけない事がある。  しかし、俺はそのきっかけを掴めずにいた。  俺達の関係を聞かれれば、友達以上恋人未満。まあ、ありがちな関係だ。  でも、俺は今日この関係を変えたかった。  理由は簡単だ。俺は彼女が大好きだったから。関係を変えたい理由には充分だ。  だから、今日一歩踏み出すって決めた。 「あのさ、話があるんだけど」 「なあに?」  彼女は、俺が話しかけても海を見ながらずっと歩いている。 「ねえ、ちょっと止まって欲しいんだけど」 「嫌。歩きながら出来る話しか聞かない」  そういって、本当に彼女は足を止めてくれなかった。 「ちょっと待てって」  俺は、無理やり彼女の腕を掴んで足を止めさせた。 「痛い!」 「ごめん。でも、こうしないと聞いてくれなさそうだから」 「だから、聞きたくないの!」 「なんでだよ」 「辛くなるから」  そういうと彼女は下唇を噛み、下を向いた。  俺は、彼女が言っている意味が分からなかった。もし、彼女が俺が今から言うことを想像出来ているなら尚更だ。 「あのさ。俺、お前の事ずっと好きだったんだ」 「知ってる…」  俺の言葉を聞いて一旦上げた視線もまた下を向いた。 「そうか…。でも、改めて言うよ。俺と付き合って欲しい」 「だから聞きたくなかったのに…」  彼女は、呟くように言った。 「お前は、俺の事嫌いだったのか」  俺の言葉に、彼女はキッと睨んだ。 「好きだから辛いんでしょ。バカ!」 「バカってお前!」 「付き合ったって、終わりが見えてるじゃない。だから今日までずっと好きな気持ちを我慢してたのに!」  彼女は、泣きそうに叫んだ。  その理由を想像できた俺は言葉に詰まった。  僕達の親は、互いに会社を経営している。そして、お互いの会社は、ライバル関係であるだけどなく、悲しいことに父親同士がものすごく仲が悪いのだ。  案の定、父親達は、俺達が仲良くするのを嫌がった。でも、互いの母親が子どもの交友関係にまで父親が口出すのを戒めてくれたお陰で今日まで俺達は、友情を築いてきた。 「お父さん達も友達なら嫌々ながらも口を出さないでいてくれた。でも、付き合うとなれば別でしょ」 「そんなこと…」 「そんなこと関係ないって言うつもり。じゃあ、あなたは卒業後どうするの?」 「神奈川にある支社に就職する」 「お父さんの会社にね。じゃあ、私はどうするか知ってる?」 「この町に残ってお前のお父さんの会社に就職する」 「その通り。私たちはライバル関係にある会社に就職。しかも、遠距離。考えればわかるでしょ。付き合っても絶対うまくいかない」 「分からないだろう」 「付き合って、別れたらもう絶対あなたと普通に会えない。それなら。会えなくなるくらいなら、私は友達としてでいいからあなたと繋がっていたかった」 「でも俺は、お前が好きだ」  俺は、彼女を諦めたくなかった。 「分かったわ」  そういうと、足元に落ちている白っぽい石を拾って、俺に渡した。 「この石を宝石に変えてから、私を迎えにきて」 「は!?お前、こんなのただの石だろう」 「だからよ。それだけ無理って話なの」  そういうと、彼女は帰って行った。 「絶対宝石に変えてやるからな。約束守れよ」 「そんな奇跡が起きればね。でも、待ってるから」  振り向いた彼女の顔は、泣き笑いだった。  あの日から2年、俺は石を宝石に変えられないままだった。 「はー。」  俺は今、同僚と宅飲み中だ。ほろ酔い気分の俺は、石を手にとりため息をついた。 「なんだよ石を見てため息って。お前変わってるな」 「これは、俺の人生がかかってる石なんだよ」 「なんだよそれ」  俺は、同僚に俺と彼女の話をした。 「なるほどな。まさしく現代版ロミオとジュリエットって感じか」 「なんだよ。バカにしてるのか」 「違うよ。なあ、ちょっとその石、見せてみろよ」 「なんで?嫌だよ」 「いいから見せろって」  俺は、渋々石を見せた。同僚は、石をじろじろ見ると俺に返してきた。 「なあ、お前本当に彼女の事好きなのか?」 「当たり前だろ。しかも、彼女も俺の事を好きだって言ってくれたんだ。俺達に足りないのは、勢いだ」 「石を宝石に変えてって、結構無謀だけどな」 「分かってるよ」 「しかも、彼女が適当に拾った石なんだろ」 「そうだよ」 「そんな石が宝石に変わったら奇跡だよ」 「そんな分かってる」  同僚の言葉に俺は、どんどん落ち込んだ。 「まさしく二人は、運命だな」  そういう同僚は、満面の笑みだった。  俺は、あの石を宝石に変えて作ったペンダントを持ち、彼女に会うために新幹線に乗り込んだ。  やっぱり俺達は、運命だったんだよ。 だって、たまたま拾った石が翡翠の原石だったなんて、ありえない奇跡だろ。  俺は故郷へと景色が変わっていく窓の外を見つめていた。 「早く、会いたいな。あいつどんな顔するかな?」 彼女は運命だったと喜んでくれるだろうか。 もしかして、嬉しくて泣き出すだろうか。 それともまた渋るかもしれない。問題が山積みだと。 でも、もう俺は引かない。もう俺の未来に彼女がいないなんて考えられないのだから。
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