値切り

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値切り

 電気屋でKが店番をしていると、一人の客がやって来た。 「おにいちゃん。電気ストーブあるかい」 「はい。ございます」  いくつかの電気ストーブを客の前に並べ、性能を説明するK。 「よし。わかった。これにしよう」客はひとつのストーブを選んだ。「いくらだい」 「9800円になります」 「高いな」客は渋っ面になった。「まけてくれよ」 「値引きですか」 「そうだ」 「うーん」Kは腕組みする。「では、8000円にします」 「まだ高い」客は食い下がった。「もう少し安くならないか」 「うーん。では7000円」 「もうひと声」 「よし。僕も男だ。5000円でどうでしょう」 「えらい。男ならもうちょっと」 「4000円」 「頑張れ」 「3000円」 「まだまだ」 「2000円」 「もう一息」 「1000円」 「もっともっと」  Kは気合いを入れた。 「わかりました。仕方ない。0円にしましょう。ただでお持ちください」 「さらにさらに」 「ええっ?」  さすがのKも相手が正気か客の瞳を見つめる。だが、まなざしはまともだ。ここで負けたら男の恥。さらなるダンピングにKは挑戦した。 「では、商品ただの上に、1000円おまけにつけましょう」 「大盤振る舞い。もう少し」 「2000円つけます」 「頑張れ」 「3000円つけます」 「まだまだ」 「4000円つけます」 「もう一息」 「5000円つけます」  客はにやりと笑った。 「よし。それで手を打とう。商品ただで、5000円つけてくれる。よし。それに乗った」  Kはほっと安堵のため息。 「ありがとうございます」  客は電気ストーブと現金5000円を手に帰って行った。  しばらくすると店主が戻った。先ほどの客とのやりとりを説明するK。  店主は唖然呆然。 「じゃ、じゃあおまえ、ただで電気ストーブをくれてやった上、レジから5000円出して渡したのか」 「そのとおりです」 「馬鹿野郎!」店主は激怒した。「なにを考えているんだ、おまえは。そんな商売どこの世界にある。弁償しろ。ストーブ代の9800円と、現金5000円の併せて14800円。すぐに払え」 「そ、そんなあ」 「いいから払え」  Kは仕方なく財布を取り出した。Kはおずおず申し出た。 「14800円ですか」 「そうだ」  Kは言った。 「あの……もう少し安くなりませんか?」
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