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第10章 混沌
騒ぎすぎてしまったことに失礼を感じ、南さんにも謝罪した。そして次はヘマしないと誓った。
「次」は意外と簡単だった。覚悟を決めればあっさり終わる。
ただ横たわっていれば、身体的な快楽を得られる。
俺を接客した嬢たちは口をそろえて「若くてイケメン」と言ったが、それが社交辞令であることも理解していった。
南さんが、店舗型ではなくデリバリーを手配してくれたのも大きいかもしれない。
華やかであるようで暗い個室は俺には合わなかった。それだけなのだ。そう考えればいい。
デリヘルでは本番行為は禁止だ。風俗のどの業界でも建前上はそう。
だが実際には、金次第で何とでもなる。
何回目かのデリヘルで、俺は嬢から裏オプを持ちかけられた。
「1万でいいよ、本番」
それを高いと思うか安いと思うかは人それぞれだろうが、俺にとっては「たった1万の女」に見えた。
紙切れ1枚のために必死に奉仕する女。
そんな女性を軽蔑しながら、俺は次第に、自分の身体の隣にたって自分を見下ろしているような感覚に陥っていった。
最初の頃こそ南さんの奢りだったが、やがて自分から嬢を呼ぶようになると、その金は自腹になる。
俺はバイトを掛け持ちすることにした。
昼はCDショップで、夜はまた音楽スタジオで働き出した。
バンドはおろか、ギターを練習することも少なくなっていく。
そんな時、2回目の緊急事態宣言が出された。
だが前回と違って南さんは休まない。
「国の言う通りにしてたら破産しちゃうよ」
南さんが隠れて営業を続けたのと同様、俺も一人で嬢を呼び続けた。
あの日まで、女性は皆、紙切れ1枚だったのに……
コロナ化で身体を密着させることに抵抗を持つ嬢も少なくなかったが、強引に紙切れ1枚を渡せば皆、俺の望むままになっていた。
それなのに……
「やめてくださいと言ってるでしょ!」
俺は嬢から平手打ちをくらった。
「2万欲しいの?」
俺が笑いながら聞いても嬢は答えず、スマホを取り出すと誰かに電話をかけだした。
そうなってようやく俺は事態を把握した。
すぐにドライバーがやってきて、罰金と称し、俺のあり金全部、財布に入っていた5万を奪っていく。
やはり女なんかに金を払うは必要ない。
2回目の緊急事態宣言も解除され、俺は方針を変える。
マチアプで素人と寝ればいいのだ。なぜ今までそんな簡単なことに気づかなかったのだろう。
早速比較サイトで俺の希望に沿いそうなマチアプを探す。
結婚を考えているような女性とマッチングしてしまったら大変だ。
彼氏募集あたりが無難だろうか。
不倫願望のある既婚女性も多いと聞いたが、その方が後腐れなくてよいかもしれない。
俺はいくつかのアプリにプロフィールを投稿した。
〈りくと申します。
オトナの友達を増やしたくて登録しました。
性格は犬っぽいと言われます笑〉
わかる人にはわかるような内容を書く。
そして顔写真はあえて無加工のものにした。
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