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第2章 連環
小学校の入学式で僕は、先生に言われるまま初対面の女子と手を繋いで式場に入った。
勉強は苦ではなく、新しい知識を得ることの楽しさのほうがまさっていたと思う。
両親に言われたわけでないが、僕は毎日ドリルを解いていた、褒めてくれるのが嬉しかったのだろう。
その結果テストで高得点をとることができたので満足していた。
クラスでの僕の立ち位置は明るい優等生といったところ。優等生といっても近寄りがたいタイプではなく誰とでも打ち解けることができた。
小学校も高学年に近づくにつれ、周りの男子たちは「俺」という言葉を使い始める。
あまり僕には馴染まないような気もしたが、クラスメートと話していくうちに僕の一人称は「俺」になった。
そんな感じだったので小学校は特筆すべき出来事があったわけでもないが、楽しい場ではあった。
そして今後の人生も楽しいはずだった。
中学に入った「俺」は学ランを着るようになる。
まだ背が伸びるかもしれないという両親の配慮から、少し大きめの学ランを着た俺は自分が小さく見えて恥ずかしかった。
入学したてはとにかく、中学校という特殊な場に慣れるのに必死だった。
小学校は自由だったのに急に理不尽な校則を押し付けられたからだ。
「自然な髪の色」を求められた俺は、生まれつき茶髪が混じった髪を黒く染めるようにいわれてしまう。
前髪が眉にかかると言われたため短めに切り、後頭部にバリカンをあて、えりあしをすっきりさせた。
だが女子は下着の色まで指定され毎日校門でチェックされていたというから、俺以上に苦痛だっただろう。
なんとか環境についていこうとしていた中学2年のとき、俺は原因不明の体調不良に陥る。
腹痛から始まり、起きるのが苦痛になっていった。
心配した母が俺をいくつかの病院に連れていったが、どの検査でも異常は見られなかった。
自律神経失調症を疑う医者もいたが、これといった解決法が見つからないまま、学校に通えなくなるまでたいした時間はかからなかった。
つまり俺は不登校になったのだ。
だからといって両親にきつく叱られたわけではない。
相変わらずテストで高得点をとっていたからだろう。
だが俺が急に不登校になった理由は担任や両親に思いあたるところもなく、俺自身わからない。
いつ具合が悪くなってもいいようにと保健室登校を始めてからは、いくぶん体調が良くなってはいたもののやはり急に寝込むこともあった。
俺がなんらかのストレスを感じていたことは確かだったが、それが何なのか俺自身にもわからない。
俺にとって中学は暗黒の時代だったが、ひとつだけ希望を持てる出来事があった。
俺を心配した父が動物病院で猫をもらってきてくれたことだ。
特にペットを欲しがったことは無かったのだが、両親は俺には何らかの支えが必要だと感じたのだろう。
まずはこの真っ黒なメス猫に名前をつけよう。
黒だからこし餡、つぶ餡、餡子……我ながらネーミングセンスがない。
悩みながらも結局「ココア」と名付けることにした。
色としてはコーヒーだが、俺はコーヒーの香りが苦手だったのと、メス猫だからかわいい名前をつけてあげたいとも考えたからだ。
「明るくなったね、りく」
母親は嬉しそうに言ったが、実際のところココアの世話をしている間は自分のことを考えずに済んだからだと思う。
中学3年生、受験生になる頃には俺の体調もすっかり回復していた。
授業に出ていなかったとはいえ、自宅ではしっかり勉強していたため相変わらず成績はよく、担任は県内の進学校を勧めてきた。
悪くない。
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