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第3章 鋼鉄
滑り止めとして私立も受けてはいたが、なんとなく父が進学校への入学を望んでいた気がして県内の公立高校に進むことにした。
正直なところ高校生活には期待していなかったのだが、中学と違って自由な校風は俺の心を解放した。
あの理不尽な校則もなくなったので毎月髪を黒く染めなくてもよくなった。
服装も自由だったので最初は何を着たらいいかわからなかったが、周りは皆Tシャツにジーンズ。俺は生まれて初めてジーンズを買った。
こうした変化が俺の心を揺さぶったと確信している。
聴いていた音楽が、子どもの頃のクラシックからロックへと変わったのもこの頃だ。
昼休みに放送部が流していたうるさい音楽に俺はすっかり魅了されてしまったため、部活は放送部にするとすぐに決めた。
放送部に行き、先輩たちから器具の扱い方を教わる。
その中で一番印象に残ったのはケーブルの巻き方である。
それまでの俺は紐状のものはただぐるぐる巻いていたが、その方法だと崩れてしまうのだという。
一回巻いたら裏側を表にしてまた巻く。巻いたらまた裏側を表にして巻く。要は裏と表を交互にするのだ。こうすれば絡むことがない。
器具の扱いの説明を受けながらも、昼休みに流れていた曲の名前を聞くのを忘れない。
「昼休みと言われても。いつの話? DJは交代制だから誰が流したのかわからないよ」
少し困惑しながらも嬉しそうに葛城先輩は腕を組む。
「入学式の次の日ですよ、部活紹介の日! いろんな部活の先輩方が自己紹介に来る中、やたらうるさい音楽をかけていたじゃないですか」
葛城先輩は
「言い方!」
とつっこみつつも上機嫌だった。
「あの日は俺が無難なロックをかけたんだよ、誰でも聴いたことのありそうなものがいいと思って」
それで曲名は?
「曲名というか……何曲目にかけた曲を探してるの?」
どれも同じように聞こえたと正直に話す俺。
「まあそうだよね、一般人にとっては大音量で叫ぶ音楽はどれも同じだよな」
「一般人」ですみません。
「あの日はBon Joviだよ。CMになった曲もあるし、まあ無難かなと」
「そのあたりの音楽を勉強したいです、教えてください!」
がっつき過ぎたかとも思ったが葛城先輩はひくどころか
「同志よ! お互いビッグになろうぜ!」
とガッツポーズを決めた。
まずい、葛城先輩はイタい人だ。だがもう戻れない。
「ロックもいいんだけど、こう……少しずつハードロックにも慣れていって。だな。いずれはメタルヘッズになろうぜ!」
何の話だかわからないが、宗教の勧誘にも聞こえた。
「ハードロックの歴史を遡るとキリがないんだけど、お前はVan Halen当たりが気に入りそう」
「アルバムは無難に1984だな」
十分遡っている、俺がうまれる17年も前じゃないか。それにしてもこの人は無難という言葉を多用する。俺が「一般人」とやらだからだろう。
その後俺はSkid Row、Guns n' Roses、Motley Crueを経て、次第にJudas Priest、Helloween、Rhapsody Of Fire、DragonForceを聴くようになる。
髪を伸ばすと決め、服装は常にバンTとジーンズ。3連の鎖をジャラジャラつけるようになる。
そして運命の曲に出会う。
Metallica/Battery
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