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第4章 重厚
想像していたより早くヘヴィメタルに目覚めた俺に、葛城先輩はひどく感激していた。
「Batteryもいいが、アルバム全ての曲を聴き込んで欲しい」
「Master of Puppetsだよ、邦題はメタルマスターっていうんだが……」
先輩の声が少し小さくなったのを感じたが、この頃には俺もメタル系のアルバムの邦題には慣れていた。
ヘヴィメタルはその中でもサブジャンルが細かく分かれている。
Metallicaはスラッシュメタルに分類されるが、葛城先輩はサブジャンルにこだわらないほうがいいという。
「メタルはメタルだよ、メタルなら何を聴いてもいい。ただしメタルに限る」
俺はすでにメタルヘッズとして生きていく決意を固めていたため、そんな先輩の言葉にも強く共感するようになっていた。
そして俺は部活動のために昼休みも放課後も放送室にこもるようになる。
正直なところ、あまりクラスメートと関わりたくなかった。
音楽の趣味というところでは、ヒップホップの話で盛り上がるクラスの男子たちとは相容れないものがあった。
かと言って女子と仲が良かったわけではない。
実は入学式から1ヶ月ほどたった頃、クラスの女子に告白されて、困惑してしまったのだ。
その子とはまだ話したことすらなかったのだが、身長175センチの俺をかっこいいと思ったのだという。
姿はかっこいいのに、顔が女の子みたいでかわいいとも。
俺がどんな人間かもわからないのに見た目で好きになってしまうのか。
そう考えると気分が沈んだ。
その後何人かの女子と仲良くなり、部活が終わったあと一緒に帰ることもあったが、告白されるとげんなりしてしまう。
女子ってやつは簡単に人を好きになるんだな。
そういう俺は人を好きになったことがあるかと問われたら、答えに窮してしまう。
小学校のときは仲のいい子がたくさんいて、特に男子とか女子とか気にしたことがなかった。
中学校のときのクラスメートの顔はよく覚えていない。そんな余裕がなかった。
無条件に好きといえるのは猫のココアくらいだ。いつも俺を支えてくれるから。
もちろん両親も俺のことを大切にしてくれていたが、ココアは俺を必要としてくれるのが嬉しかった。
なのに高校の女子はすぐ、好きだなんだのいう。
俺が冷たい態度をとってもあきらめない。
かと思うとその1ヶ月後にはまた別の男子に恋をしている。
やがて高校2年に進級してクラス替えがあり、風花と出会った。
俺の場合はそもそも地毛が茶色いが、彼女は染めているようだった。
明るいワンピースを着たかと思うと、黒いTシャツにミニスカートの組み合わせを着てくることもある。
俺はメイクには無頓着だったが、彼女がリップを塗っているくらいはわかった。
だが俺は彼女が美人だから気になったのではない。
ある金曜日の朝、下駄箱の前で会った風花はMetallicaの…And Justice For All Tシャツを着ていたのだ。
まさか女子がMetallicaを聴くとは思っていなかった。
「…And Justice For Allを聴く仲間がいて嬉しいよ!」
「同志」と呼ぶには馴れ馴れしいかと思い、「仲間」という言葉を使ったのだが、風花はあきらかに戸惑っていた。
「何の話?」
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