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懐かしい景色だ。 学校の旧校舎。滅多に人が来ない俺達の秘密の場所。 懐かしい歌が聴こえる。 まだ声変わりもしていないあどけないアイツの歌う声。 いつも一緒に歌っていた二人が大好きな劇中歌。 嬉しくなって一緒に歌おうと声を出そうとするが苦しくて声が出ない。 歌が聴こえてくる部屋の扉を開けて中を覗くとそこには幼いルークと俺がいた。 幼い俺はルークに合わせて歌い出す。 なんて不恰好、なんて下手くそ。 透き通るようなルークの歌声とは全く違う。 だけど笑いながら楽しそうに、二人は歌う。 これは夢だ。 いつかの、まだ夢を見るように生きていた頃の夢。 俺達は名門の音楽一家に生まれた。 特にルークの父親は国民的ミュージカルスターだ。 劇場にはいつも人が溢れていた。 俺の父さんはルークの父親の双子の弟だった。 ルークの父親とは違い国民から嫌われて家からも縁を切られ、俺と母さんを置いて国外に出て行った人。 何故そこまで落ちぶれたかというと、ある事件を起こしたからと聞いている。 ある日ルークの父親に掴みかかり怪我を負わせた。 しかも顔に。役者の大事な顔に。 それも舞台の開演前だった。 ルークの父親はその日仮面をつけて舞台に立った。 それが今や国民的スターの伝説となっている。 当然その息子であるルークも表舞台に立つことが望まれた。 そしてルークはその国民の声に応えた。 俺には想像もつかないプレッシャーなんてのもあるだろう。 立派だよ。 一方俺は舞台に立つチャンスも与えられなかった。 俺とルークは劇が大好きだった。 俺達は共に同じ夢をみた。 だから昔アイツが俺の分も夢を叶えてくれると言った時、素直に嬉しいと感じた。  応援していた。 そのはずだったのに、俺はアイツが俺達の夢を叶えたその日に朝から酒を飲んだ。
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