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仮面
目が覚めたら真夜中だった。
あんなにいた人達もさっぱりいなくなっていた。
酔いもすっかり覚めている。
劇はきっと大成功を収めたのだろう。
大勢の観客の前で歌うのはどんな気分だっただろうか。
試しに俺は夢の中で歌えなかった歌を歌ってみる。
ラ〜♪
なんだか気分が良かった。まだ酔いが残っているのか。
相変わらず下手な歌は夜空に消えていく。
観客なんていない。そう思っていた。
パチパチ パチパチ
ふいに拍手が聞こえた。
視界に映ったのは仮面をつけた男だ。
「ルーク?」
いや、違う。
「叔父様?」
「いいや」
近づいてくる男は小さな声で返事をした。
月明かりで光る仮面が不気味で逃げようかと迷っている間に男は俺の目の前に来て屈んだ。
「誰だよ」
悪趣味なイタヅラか。
俺だとわかって揶揄っている?
「私だよ、デューク」
そう言いながら仮面を外した男の顔は僅かに微笑んでいる。
その顔には見覚えがあった。
「父さん…」
「ああ、そうさ。覚えていてくれたんだね」
にこにこと笑う顔には皺が無数にある。
「そりゃあ、叔父様と瓜二つだからね」
「あぁ、そうか…」
父親はなんだか寂しげに応えた。
「何しに来たんだよ。いつ帰って来たんだ」
「今日だよ。今日はほら、ルークの晴れ舞台だったろう。良い舞台だったようだよ。劇場から出てきたお客はみんな満足そうだった」
「中に入らなかったのかよ」
「そりゃあね。入れないだろう。そんなことよりも、さ。父親としては自分の息子の方が気になるに決まってるじゃないか。家にもいないようだったし。探したよ。こんな所に寝ていてびっくりしたけどね、大丈夫かい?」
「別に、大丈夫だけど」
「随分と酔っ払っていたようだけど」
「いや…誰のせいだよ」
俺の声は苛立ちを隠せていなかった。
父親の表情は明らかに曇っていく。
「すまない」
突然の謝罪に俺は虚しくなり視線を空に向けた。
星が綺麗だ。
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