零と一

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 毎週月曜日と水曜日と金曜日の夜、かかさず駅前で路上ライブを始めてから三ヶ月が経った。中学生の時からの相棒のアコースティックギターと共に敬愛するアーティストたちのカバーソングを歌うささやかな時間。立ち止まってくれる人は少ないけれど、誰も立ち止まってくれない訳ではなかった。それが続ける希望になっていた。  路上ライブの末デビューするアーティストは少なくない。社会現象にまでなったアーティストだっている。このまま路上ライブを続けてデビューができるほど簡単なことではないとは強く感じているけれど、挑戦する価値があるとも思っている。  自由な時間が多い大学生。その4年間でデビューの切符を掴みたい。ダメだったら、就職だ。大学二年生の僕にはあと2年時間が残されている。2年、長いようで短い。 「ありがとうございました」  カバーした曲名とアーティストの名前を言うと、立ち止まって聴いてくれていた何名かがパチパチと拍手を送ってくれた。たまにギターケースの中にお金を入れてくれる人もいる。僕はペコペコと頭を下げながら、最後の曲を歌う準備をした。  その間に立ち止まっていてくれる人といなくなってしまう人がいる。大体が後者だ。いつか最初から最後まで立ち止まって僕の歌を聴いてくれる人を作るのが今のところの目標だ。 「最後は僕のオリジナルの曲を歌います。この曲は僕が初めて作詞作曲した作品です。よろしければ聴いていただけると嬉しいです」  忙しなく歩く人達に向かって曲紹介をし、水を一口飲んだ。ピックをぎゅっと握り、弦を強く抑える。
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