零と一

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 ピックで弦を弾けば奏でるメロディー。立ち止まってくれる人はいない。それでもイントロは進み、声が入る。Aメロのスタートだ。  『behind』は見知らぬ大人の女性に惹かれる青年の恋模様を描くストーリーだ。青年は彼女に話しかけたり、想いを伝えることができず、葛藤する模様を描いている。  Bメロに入る。サビ前に一気に加速させる。語りかけるように、でも弱々しく。  ジャンっ。サビ前に間を入れる。聞こえるドラムの優しいリズム。ここだ。ジャンジャンジャンっ。またギターを弾く。 「♪どうすればいい どうすればいい 今日も僕は後ろ姿しか見れなくて 情けなくて あーもう嫌になっちゃうなぁ」  ありふれた歌詞かもしれない。でも今僕なりに書ける最大限の最高の歌詞だ。かつての恋心を思い出しながら、苦しかったけど楽しかった思い出を大切にしながら書いた歌だ。 「♪貴方を前に 顔を上げてすれ違えなくて 隠して 下を向いて」  スーツを着たサラリーマンたちや学校帰りであろう中高生、大学生は特に立ち止まらず、こっちに目もくれず誰かと喋っていた。やっぱり路上ライブをするならオリジナル曲じゃなくて、有名ソングを歌った方がいいのだろうか。それとも立ち止まってくれた人がいたから僕が自惚れてしまっただけだろうか。 「♪今日も僕は靴ひもを結ぶ嘘」  悲しく、ポロンッとギターを弾いてサビが終わる。間奏。この後に2番のAメロだ。  僕は切なくて悔しい気持ちになりながらも、最初なんてこんなもんだと思いながらなんとか気持ちを切り替えようとする。
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