零と一

4/5

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 間。弱々しい声で始まるラスサビの冒頭。 「♪どうすればいい どうすればいい」  二回目の間。今度はギターも声も元気よく、力強くなる。 「♪もがくしかないんだ やるしかないんだ 今日も僕はあの日から変わっていないけど そのままで あーもう必死なんだよなぁ」 「♪貴方を前に 顔を上げてすれ違えなくて 隠して 下を向いて」 「♪いつも僕は靴ひもを結ぶ嘘 だけど」 「♪今日は 斜め前に立ってみようかな」  曲が終わる。初めてオリジナル曲を路上ライブで披露した。とても緊張した。誰も立ち止まってくれなくて悔しかった。恥ずかしかった。でも悔いはない。 「ありがとうございました。オリジナル曲・behindでした」  いつも芝居ばかりしている僕の心の声を舞台裏での姿を意味してbehind。誰も拍手してくれない。僕はちらっと遠くにいた女の子を見た。自分を疑った。遠くでひっそりと拍手をしてくれている。聴いてくれていた。  僕は嬉しくなって、フッと笑みがこぼれた。 「ありがとうございます!」  女の子の目を見て、大きな声で感謝を伝える。女の子はビックリして、それからペコリと会釈をした。  まだまだ先は遠いけど、オリジナル曲が少なくとも誰かに聴いてもらえたことがとても嬉しかった。歌うことを辞めなくてよかった。これほどに自分の作品を聴いてもらえたことが、拍手をもらえたことほど嬉しいことはない。  ありがとう。僕は心の中で彼女に感謝を述べると、水を一口飲んだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加