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「以上で、今日の路上ライブを終わりにします。本日はありがとうございました! 次は水曜日の17時から同じ場所でライブを行いますので、よろしければお越しください。本当にありがとうございました!!」
僕は深くお辞儀をし、片づけを始めた。誰かの気配を感じてパッと視線をそちらに向けると、先ほどの女の子が立っていた。僕は片付ける手を止めて、彼女を見た。
「聴いてくれてあり──」
「また明後日も来ます」
彼女が僕の言葉を遮ってそう言った。僕は目をぱちくりさせ、それからフッと笑った。
「嬉しいです。ありがとうございます。お待ちしております」
彼女はギターケースにかけられたスケッチブックを見る。そこには「廉也」と僕の活動ネームとSNSのidが書かれていた。
「SNSもフォローしました。廉也さん、応援しています」
真っすぐに伝えてくれた彼女の瞳に僕の心は撃ち抜かれた。
「ありがとうございます! リクエストも受け付けているので、もしあったら言ってください」
「考えておきます」
彼女は歯を見せて笑った。僕も歯を見せて笑った。
たった一人、されど一人。この一人の重みは違う。零よりも一の方が遥かに捉え方や心の持ちようが違う。応援してくれている、味方でいてくれる、そんな存在が一人でもいたら、心がスッと軽くなる。自分が肯定されているような気持ちになるのだ。
忙しなさと放課後と仕事終わりの人々の開放感と少しのタバコの臭いとが交ざった駅前。そこに少しの幸福が交ざって、また別の形へと変形する。羽ばたけそうだ、と僕は思った。
(了)
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