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グドーが去ったあと。
残った近接のアスターと遠距離の僕は、状況を分析していた。
「アスター!できるだけ各個撃破にしよう!最近の幽霊はあまりにも危険だよ!」
「わかってる!」
ここ最近の遠征は時間がかかる。
距離が離れてるってのもあるけど、軍として倒すべき敵が増えているというのも重大な一因だ。
しかし最も危険視しているのは、その増えた敵の強さもそれぞれ上がっていることだ。
──つまり、強い敵が時間と共に増えていっているということ。
すごくわかりやすいものだが、対応する僕たちからすると、たまったものではない。
元々幽霊や妖怪は悪魔たちより強く、1体倒すだけでも命懸けだ。
大抵は霊界からやってきているのだが、人間界からやってきた幽霊、妖怪はその数倍は強い。なので最悪だ。
強さには認知度も関わってくるのだそうだが、そんなのどうだっていい。
殺るか殺られるか──その結果だけが必要なのだから。
「……いち、に、さん……3体いるね」
「今向こうのチームが1体引き受けてくれた」
「見えてるよ」
幸い居場所がバラけていて、僕たち、幽霊、別のチームの索敵範囲が被っていたようだ。
まだ幽霊たちはその辺をフラフラしているだけのようだが、見た目や行動と強さを同じにしてはいけない。気をつけないと。
「アスター、奇襲をするよ」
「了解。すぐに撃てるようにしておいてくれよ」
アスターは自分の魔法で異常に発達させた足腰にグググ……!と力を入れる。今にも弾けそうなその体は、飛んで走る準備を完了させていた。
「大丈夫。風でひねり潰しちゃうよ」
「お前たまに怖いよな」
互いに軽口を言ったあと、頷き合う。
──これが、合図だ!
「フッ────!!!」
ボッ!と音を出して、生き物じゃない速さを出すアスター。
砂埃が舞って、目に入りそうになるが気にしない。僕はさっきグドーがやっていたように、右手を前に出して風を生み出すだけだ。
「ガルルルルッ!!」
アスターがその大きな爪で幽霊の体をひっかく!幽霊には袈裟斬りされたような大きな爪痕がついた!
血が出ているのか、「ギアアアアアッ!!」と叫んで、痛みで左右に体を振り回している。これがもっと得体の知れない幽霊だとすると普通に恐ろしい。しかし今の僕は『死』が間近にあることからか、こんなことでもヒヤッとした。
カリビア副隊長のマジックアイテムのおかげか、幽霊に物理は効くし、デバフもかけられる。しかし魔法系はダメらしい。シャレットの剣やアスターの攻撃でないと、効果が出ないようだ。
グドーは両方が使え、電撃で相手の動きを止め、パンチで仕留める方法をいつも使っているのだが、マジックアイテムを使ったら電撃が強すぎてそれだけで終わってしまったことがある。それでもいいんじゃない?とは言ったものの、これじゃあスキルに偏りが出ると言って、結局マジックアイテムは使わないようになったんだ。もっと自分に甘くなればいいのに。
「ミゲル!」
「────はああっ!!」
左手で右手を支え、まずは風を固めた槍を飛ばす。それはそのまま幽霊とアスターの方に向かい、槍が幽霊に刺さったのを見て、アスターは避けた。
──直後────
「あ゛──お゛あ゛ああああああ!?!?」
風の槍は弾けて拡がると同時に、収縮も始めた!
風があるところは空間が歪んで見えるし、なんなら真空だ。
──まるで僕の妹が大好きな、『宇宙』みたいに。
幽霊の体はそんな『小さな宇宙』に吸い込まれ、捻られ、存在を歪められる。
痛いだろうに。苦しいだろうに。
僕たちの魔界で悪さをしようとしたからだ。
ブラックホールならまだマシだったのかな?ごめんね、これは終わりのあるものなんだ。
「い゛だい゛!い゛だい゛い゛だい゛い゛だい゛ィィ!!い゛だい゛よぉ゛!!」
幽霊に骨はあるのだろうか。
無かったら形がちゃんとしてない?ならあるんだろうね。
あぁ、かわいそうだ。骨もバキバキだろうし、体は90度に……いやもっとかな?マーブル模様になり始めてる。あっ、今頭も取り込まれ始めたね。もうそろそろ物理的にも叫べなくなってきたんじゃないかな?
「…………なかなかだな、ミゲル……」
アスターが青い顔をして歩いてきた。アスターって獣みたいなものだから血には慣れてそうだけど、逆に血の出ない拷問じみたものって見たことないんじゃないかな?
「今イイところなの」
「あぁ、そう……」
僕がいろんなものに興味が湧くことはアスターだけじゃない、グドーやシャレットも知ってる。どんな些細なことでも妹の治療に関係してくるかもしれない、と、知識を集め回っているからだ。その辺りはみんな手伝ってくれるけど、やっぱりグロいのはダメみたい。
「づ、づぶれ゛、づぶれ゛る゛ぅゔゔゔゔ!!!」
へぇ、幽霊にも感覚なんてあるんだ。
人間界ではあまり物理は効かないみたいな話を聞くけど、やっぱり魔界に来たら魔力とかで肉体が出来始めるのかな。
「あ゜」
──ゴキッ。
──グチュ。
あーあ。観察タイムが終わっちゃった。
「……もう良いだろ、ミゲル」
アスターが僕の肩をポンポンと叩く。……ちょっと手が震えてる。怖かったのかな?かわいい。
「うん。ありがと。すごいね、ブラックホールみたいだった」
僕がとびきりの笑顔を見せると、アスターは顔を引つらせた。
「お、おう……そうか…………そうか……」
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