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「ジェラールさま、お呼びですか」
雑然と足の踏み場もないほどに物がとっ散らかっている部屋にノックの音が響いた。師匠の返事を待たずに、弟子は入る。年の頃なら大人になりかけた少女は、収まりの悪い巻き髪をとんがり帽子に詰め込んでいた。
「薬、できた?」
椅子に腰掛けていたジェラールは、大きな机に肘をついて少女に問う。
「それが…難しくて…」
「まあ、そうだろうね、そうだろうと思ってた」
「もおお、少しは期待してくださいよ!」
出来の悪い弟子の剣幕に、師匠は大きくため息をついてみせた。課題を出して、もう一ヶ月である。一向に成果を提出しようとしない弟子クロエを呼びつけたのは、取り敢えず今まで何をしてきたのかの経過報告を聞くためだった。
「怒らないで聞いてくださいよ?」
「それは約束できない」
「やだあああ、絶対怒るもんー!」
「どーでもいいから、はよ報告して」
弟子はしゅん、と落ち込むと、肩から下げた鞄から手帳を取り出し、ぺらぺらとめくりながら口を開いた。
「寿命が伸びる薬をつくるためには、王道のレシピを探そうと思いまして、師匠の本棚から何かヒントを見つけようと」
「ああー、それで私の部屋こんななのね?」
「後で片付けようと思ってました!」
「今日中に元通りにしといて」
クロエはあからさまに嫌そうな表情を浮かべたが、それに構うことなく、ジェラールは次の言葉を促した。
「それっぽいのをいろいろと配合してつくってみましたが、どれが成功なのかよくわからず」
「たぶん全部失敗だったと思うよ」
「師匠の朝昼晩のご飯に全部混ぜました」
思わず師匠はむせた。
「いやいや、確かに実験台になるとは言ったけど、黙ってそんなことする?!」
「寛大な師匠を持ってしあわせです」
「殺す気かよ」
「私もですね、これではいけないと思いまして、不死のドラゴンがいると有名なバレーヌ山脈に参りました」
「お、そういえば数日いなかったときあったね」
師匠の期待する声に、クロエも声を弾ませる。
「道、めっちゃ迷ったんですけどね! 何とか到着して、ドラゴンさんにも会えて、不死のヒントくださいって聞いたんです」
「え、あいつ喋るの?」
「喋らないって知らなかったから、無視されたのかと思って、私の作った薬をぶん投げてきました」
「ええー…、もしかして最近あったバレーヌ地方の大災害って、クロエのせいじゃないの」
ジェラールは頭を抱えた。
「王宮にバレたら、司法の手が伸びるね、これね」
聞かなかったことにしよう、と決めて、ジェラールは続きを聞くことにした。
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