はじまり

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「いきなり寿命を伸ばす、なんていう難易度高いのからするからいけない、と思いまして、取り敢えず伸びる練習をしようと!」 「何でそーなるの?」 「怒らないで聞いてください!」 「いや、呆れてんだよ」 行動力だけは随一だが、どうにも突拍子もない。何度目かのため息をつくと、で、どんな練習をしたの、と弟子に水を向けた。 「まずは師匠秘蔵のお酒に手を伸ばしました」 「えっ」 思わず腰を浮かせて、だいじに隠してある棚のほうを見た。 「ははーん、あそこにしまってあるってわけですね? 報告のあとすぐ回収しておきます」 「ちょっとちょっと、それは関係ないでしょ?!」 「飲みすぎて、よく廊下とか外でのびてるじゃないですかー! 師匠の健康のためです!」 「くっそ、のびるのびる言ってたら何でもありなわけじゃないぞ?!」 「まだあります! まだ考えました!」 クロエは得意げに胸を張った。 「師匠のよれよれのパジャマに、うすーく糊を伸ばして、しわを伸ばしておきました!」 「パジャマはよれよれだからいいんだろ!」 「師匠、いい大人なのに、パジャマ着ててかわいいですよねー、水玉の」 ジェラールは宮廷の堅苦しい生活から抜け出してきてからは自分の好きなように生きてきたので、まさかこんなところで自分の寝姿に何か言われる日が来るとは思わなかった。 姿勢を正して、軽く咳払いをする。 「クロエくん、明日から早朝トレーニングね」 「怒らないで聞いてくださいって言ったじゃないですか!」 「免罪符になると思うなよ」 ジェラールはクロエより倍の年齢ではあったが、魔法に反比例した生活能力の低さから、クロエに保護者面をされるのだった。 「伸ばすんだったらさ、記録とか成績とか、そういうの伸ばしなさいよ」 「あ、さくらんぼの種を前より遠くまで飛ばせるようになりました!」 「わー、すごいねー…」 出来がいい悪いの次元ではないような気がしてくる。ジェラールは、まだあるの?と聞いてみると、クロエは力強く頷いた。
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