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「怒らないで聞いてくださいね?」
「その枕詞ないと話せない内容なの?」
「えーと、ほら、うちも魔法の薬を調合するときにお世話になってるソニアさんいるじゃないですか」
薬草とか希少な木の実とか、そういう行商をしている女性だ。放浪しながら狩りをして、家に戻って擦り潰したり燻製にしたり、またそれを持ってあちこちの魔法使いに売って…というような商売をしていた。なかなかの腕で、そこで仕入れる素材は一級品ばかりであった。
「師匠が、ソニアさんを見るとき、鼻の下を伸ばしてるって教えておきました」
「は?」
「ありがとう、これから服は丈や裾を伸ばしたものにするわね、ってソニアさん言ってました!」
「よけーなことを…」
鍛えられた部分と女性らしさの部分とのコントラストが、着ている服では隠しきれない魅力を放っていたのだが、それがさらに控えめになるというのか。
「こんな山奥でめったにない眼福というのに」
「いやらしいです、師匠!」
クロエは頬を膨らませて、目でたしなめてきた。次に弟子をとるときは、男子にしよう、と思う。
「で、まだあるのかい」
ジェラールは疲れてきたが、そう聞いてみた。
「笑わないで聞いてください」
「うん?」
急に趣向が変わり、師匠は弟子に目を向けた。
クロエは、帽子を取って俯くと、先程までとは違った様子で口を開いた。
「私の髪…こんなくるくるで、ソニアさんみたいにまっすぐできらきらした長い髪になりたくて」
「ほう」
「魔法で何とか伸ばそうと思ったんですけど、全然うまくいかないし、何なら余計にくるくるになってしまってー…」
「そのままでいいのに」
クロエはばっと顔を上げた。
「だって師匠、ソニアさんにいつも見惚れてるじゃないですか!」
「いや、それはまあ成人男性として不可抗力な自然な反応というか」
「ソニアさんみたいにすらっとした体型になりたくて、身長伸びるように私も好き嫌いなく食べるようにしてるし、運動もしたり、つまりその――」
クロエはジェラールの机の対面までずかずかと詰め寄ると、ばん!と両手で机の表面を打った。
「ジェラールさまが好きなんです!」
弟子からの思わぬ言葉に、師匠はぽかんとするのだった。
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