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「……あなたにも」
再びマイクを通して、笹山の声が響き渡る。また、静まる。
「あなたにも、きっとできるから。ね、近藤大地さん。メッセージをありがとう」
俺は、外れるどころか落下しかけた顎を、両手で支えた。
カメラの一台が、ぱっと俺に目を合わせてくる。
「いや、俺は、ただの」
「頑張ってください。ノイズから見つけ出せて、良かったわ。あなたのメッセージは、ノイズを『破いて突き進んで』、『届け』られて、私はそれを『受け取っ』たから。あなたは、きっと、できる。ノイズを『破いて突き進』むことが」
笹山莉乃は、その言葉を最後に、全方位に向けて何度も頭を下げながら退場していった。
俺は、その残像のそば、スタート位置へと、歩いていった。
ピストルの砲口が、グラデーションの空を見据える。
クラウチングスタートの姿勢、指の腹が、トラックの素材までもを感じ取る。
自分たちをまっすぐに見つめる、無数の目は、景色の中に溶けて。
ひとつ、息をすると、世界には俺一人となった。
パン、という破裂音だけが、俺のためだけに。
俺は、追いかけるように走った。
〔完〕
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