ノイズ

8/8
前へ
/8ページ
次へ
「……あなたにも」 再びマイクを通して、笹山の声が響き渡る。また、静まる。 「あなたにも、きっとできるから。ね、近藤大地さん。メッセージをありがとう」 俺は、外れるどころか落下しかけた顎を、両手で支えた。  カメラの一台が、ぱっと俺に目を合わせてくる。 「いや、俺は、ただの」 「頑張ってください。ノイズから見つけ出せて、良かったわ。あなたのメッセージは、ノイズを『破いて突き進んで』、『届け』られて、私はそれを『受け取っ』たから。あなたは、きっと、できる。ノイズを『破いて突き進』むことが」 笹山莉乃は、その言葉を最後に、全方位に向けて何度も頭を下げながら退場していった。  俺は、その残像のそば、スタート位置へと、歩いていった。  ピストルの砲口が、グラデーションの空を見据える。  クラウチングスタートの姿勢、指の腹が、トラックの素材までもを感じ取る。  自分たちをまっすぐに見つめる、無数の目は、景色の中に溶けて。  ひとつ、息をすると、世界には俺一人となった。  パン、という破裂音だけが、俺のためだけに。  俺は、追いかけるように走った。 〔完〕
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加