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 投資教材の買い方をいくら説明しても一向にちんぷんかんぷんな中谷瞳に嫌気がさしたのだろう、あれだけ頻繁だった彼からの連絡はパタリと止んだ。 「まずい、これは非常にまずいぞ!」  バルーンハウスの中で私達は発狂した。  このままだと失恋でまた家が崩れてしまう。  しかし我々の危惧は無駄に終わり、家が崩れる事はなかった。  彼女はせっせと仮想通貨について真剣に勉強をしたようだった。  これまで見渡す限りの花畑だった一帯には高層ビルが建ち並び、高速道路まで建設された。 「すっかり見違えたな」  窓の外を眺めてマグカップ片手にジョンが呟く。 「なんだか少し寂しいわね」  縫い物をする手を止めずに私がそう言うと、向かいの席に座っているマーカスが首を縦に振った。  その晩、3人でトランプをしてから就寝した。 「おい! くるぞ!!」  ジョンの荒げた声を聞いて飛び起きる。  再びベッドの下から防災用品を詰めたバックパックを引っ張り出すと、ヘルメットを手渡していく。  我々はバルーンハウスから飛び出すと、前回と同じように地面に伏せた。  カラフルなバルーンハウスが、みるみるうちに膨らんでいく。  咄嗟に両手で耳を塞いだが、おさえた耳がじんと痛むくらいの破裂音を轟かせてバルーンハウスは弾け飛んだ。  恐る恐る跡地に近付くと、地面に落ちているバルーンハウスの残骸を拾い上げる。  それはまるで破れ去った彼女の恋心を体現しているかのように思えた。 「詐欺だって、いまさら気付いたのね」  萎んだバルーンハウスの残骸は、私の手の中で音もなく消えていった。 「もうこんなアホみたいな家に住むことはなくなるんだな」 「そうね。彼女も色々と学んで賢くなったでしょうし」 「今までの家も何だかんだで楽しかったよな」 「……マーカス、毎回お前が一番文句言ってたじゃないか」  妙にしんみりした空気になっていると、またもや大きく地面が揺れた。  期待に胸を膨らませながら、私達は地面に伏せて互いの手を繋ぎ合った。  新たな恋のお相手は投資家か、はたまたベンチャー企業の社長か、意外なところで弁護士かもしれない。  豪華な家の大きなオーブンでクッキーを焼くという私の長年の夢がついに叶うかもしれない。  揺れが収まり砂埃が収まると、我々の新しい家が姿を現した。 それは クッキーやチョコレートで出来た見事な"お菓子の家"だった。  決まっていつも最初に文句を言い出すマーカスが今回ばかりは言葉を失っているようだった。  私は今、これまでの人生で一度も口に出したことのないような品の悪い言葉を発しようとしていた。 「…………fu」 END.
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