パニック

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泉の底で待っていたものは 漆黒の瞳の無数の人間だった。 「貴方様は天使様?」 掃き溜めの中、蠢く人間をよそに 黄金の光を纏う青年は凛と起立した。 それを目にした人間は 這うように膝を(こす)りつけながら にじり寄る。 みな、手のひらをすり合わせ 懇願している。 一人一人が何かを呟きながら じわじわとにじり寄る。 中央に立ちすくむ青年は あまりの恐ろしさと不気味さに 思わず背中の翼を大きく広げた。 バサっ・・と、その音と 広げられた翼の美しさに 人間の目がたちまち釘付けになる。 その時、 はらりと羽が1枚・・ 途端に群がる群集 羽だ! 羽だ! 天使の羽だ! 人間同士 お互いを踏みつけ、鷲掴み 1枚の羽を手にするが為に 誰それかまわず蹴落とす。 争いに揉まれ 背中の羽が舞う 羽が舞うと 人間が群がる 人間が群がると 羽が舞い散る いつしか羽欲しさに伸ばした人間の手は 体温が通う翼に手を差し入れ・・ 助けてと、懇願するのは むしる方か むしられる方か・・ 決して 覗いてはいけない 泉の奥深く・・・ 奇跡を願う人間は 今日も天を仰ぐ・・・
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